第16話 二章♢ありがちなラブロマンス 04
お父様は、メルディロード家に生まれた直系の貴族である。
前世は何世代か前のメルディロード家当主という、まさに当主になるためだけに生まれてきた様な人材だった。
父譲りの金髪、母譲りの黄金瞳という、見目麗しい姿で生まれてきた父は、幼い頃から貴婦人たちや同世代の少女たちから恐ろしいほどの人気を集めていた。
更に、加護は天使直々にライトニングからの加護を受け、聖霊や聖獣とも契約を結び、文武両道で王の覚えもめでたいという、まさに主人公、王子よりも王子だと言わしめた天下無敵の男だ。
お父様と比べられてしまった当時の王子──今の王様は、御愁傷様ですとしか言えない。
運が悪かったのだ。たまたま、物語に出てくる嘘みたいな完璧が存在してしまった時代に生まれてしまった。
だが、本物の王子は、王子足り得る人材だと証明されるかの様に「軍神・アクアエリオス」からの加護を受けた。それにより、誰しもが「やはり王子は王の器なのだ」と認めた。
だがしかし、だからと言ってお父様の評価が落ちる訳ではない。
加護を受けてからというもの、各方面からの求婚・縁談が後を絶たなかったそうだ。聞いた限りでは、30も年上のご婦人から商人、異国の貴人、果ては王家からも声がかかったとか。
だが、その誰もが父をうなずかせることはできなかった。父は頑なに首を縦にはふらなかった。
凡庸な町娘も、誰が見ても美人だと言われる王女すらも、父は興味がないと言い張った。
ライトニングの顕現とも言われた父を落とすのは誰か、と社交界から街の井戸端会議までこの話題で持ちきりだった。
そんなお父様を落としたのは、お母様だ。
栗色の髪に栗色の目。この国では珍しい出で立ちの母は、王都から少し外れたところで宿屋を営む夫婦の娘だった。王都に向かう者から王都から出て行く者がこぞってこの宿屋で一夜の夢を過ごした。
母の前世は、滅んだ異国の踊り子だった。
今は見ることもなくなった異国の踊りを妖艶に奏でる異色の娘は、男の話題になるには容易い。各地で話題に登る事となった『異国の踊り
領地に商いに来た商人が、「今、王都付近で最も話題となっている『異国の踊り子シンデレラ』も愛用の〜」という名目で、城下で商いをしていることを知った、当時メルディロード家の夫人であったお祖母様がお忍びで街に赴き手にしたのは、ありきたりな髪飾りだったそうだ。
しかし、その髪飾りは流行ると踏んだお祖母様は伯爵──つまりお祖父様に王都へ行きたいと進言。異国の踊り
「誰とも結婚しようとしない息子も、もしかしたら」
と一家で王都へ行くことを決意。
そこから、一悶着どころか数々の困難を乗り越え、遂に両親は結ばれた。
お祖母様の目は正しく、髪飾りは大流行し、更に「あの王子伯爵を落とした」お母様が使用していたという宣伝効果もあり、メルディロード家はかなりの財を手にした。
お祖父様の勘も正しく、お父様はお母様と結ばれ、それまでの冷徹ぶりが嘘のように柔らかい雰囲気になり、妻子にデレデレになると言う一面を世間に見せることになった。
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