第15話 二章♢ありがちなラブロマンス 03

でもまさか、そう言った翌日に、陰口を言っていた大人全員が謝りに来るなんて思わないじゃない?普通。

両親が共に本当の両親であると証明するかのように、全力で事に取り組んだらしい、と察するのに十分な仕事だった。


私の家、メルディロード家は伯爵家だ。かなり昔に王家から貴族の爵位を頂いた、歴史ある伯爵家である。

男爵家に対してあれば上位を取れる立場なので、男爵家を取り潰すまでは行かずとも、謝らせにくるくらいであれば、出来ない訳ではない。

ただ、あの男爵──私に嫌味を言ってきたベスト男爵は、可哀想なくらい憔悴した様子で、私に深く頭を下げてきた。


「お嬢様…いえ、サラ様。大変、大変申し訳ございませんでした……」


パーティーの時の様な嫌味ったらしい様子はなく、ただひたすらに頭を下げ続ける男爵。

幼心ながら、嫌々謝っているのではないんだな、と思ったものだ。


「私の可愛い可愛いアリスを泣かせたんだ、それだけで済まないことくらい、わかっているんだろう?」


なぁ、男爵?と爽やかな笑顔で笑う父に、男爵は絶望した、乾いた笑いで応じた。

続々と、入れかわり立ちかわり応接間にやってくる大人たちに頭を下げられ続け、驚きと戸惑いでいっぱいいっぱいのうちに、謝罪だらけの一日が終わった。


それから数年経って、ふと思い出してアルに聞いたことがある。


「ねぇアル、覚えてる?」


「え、何がです? 今日、何かありましたっけ」


ふむ、と考える様な顔つきになったアルだが、どこか冷静なのは、今日が特に何でもない日でしかないと分かっているからなのだろう。

私より少ししか年上でないのに、やたら大人びて見えるのは、今思えばアルも記憶を操れるタイプの人間だったからなんだろうな〜なんて思っていると、アルが「それで?」と先を促してきた。


「昔、私のお誕生日パーティーの時。確か、4歳か5歳かの時の…私が養子だって嫌味言われて、そのことに対して一悶着あった時のことなんだけど」


「あぁ、ありましたねぇ。」


「あの嫌味男爵、あの後どうなったの?」


一代限りの男爵家が王都から姿を消した、というだけなら、まだない話ではない。

ただ、あの日以降、あの男爵を社交の場で見かけたことがなかったのだ。

見かけなかっただけじゃない。噂を聞くことすらなかった。

すっかり忘れていたけれど、「謝るそれだけで済まなかった」男爵は、どうなったんだろうかと。


「それに、私の話だけであそこまで事が大きくなったのもわからなかったんだよね」


「…どうして今更、そんな事を?」


忘れていればよかったのに、という副音声が聞こえてきそうな表情だなぁ。

ただ、思い出してしまったからには気になってしまったのだ。


「ふぅ。あの件は、割とタブー扱いになっているんですけど…」


という前置きはあったものの、アルが教えてくれた裏話。

お父様とお母様が、頑張っちゃった話。

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