第14話 二章♢ありがちなラブロマンス 02

パーティーから数日経ったある日、庭を散歩していると、木の陰に怪我をした猫が蹲って小さく鳴いているところに遭遇した。足を怪我をしていた猫を助けようと、治癒魔法を持つ母を呼ぼうとして、


「こんなことで、実の母でもないのにと、不快な思いをさせたらどうしよう。嫌われて、家から追い出されてしまったら」


と、そんなことを考えてしまった。

そこで、前世の記憶と母の様子を頼りに治癒魔法を無理に発動させようとした私は、魔法発動の光を見つけたアルバスが呼んだ、アルバスの父でこの家の執事長であるオロバスによって、母まで呼ばれることとなった。

母は大層心配して、猫を治しながら、半泣きで私を叱った。


「こんな無茶な魔法を使ったら、治癒どころじゃなく、怪我をしちゃうじゃない! なんでママを呼んでくれなかったの!?」


迷惑をかけまいとした努力を叱られ、私は泣きながら母に言った。


「本当の子供じゃないんだから、こんなことで呼ぶなって、思ったから」


しゃくりあげながらそういう私に、母は涙の溜った目をどんぐりのように見開いて、治癒の終わった猫から手を離し、どうしてそんなことを言うの、とか細く震える声で理由を問うた。

私は、先日のパーティーであったこと、いつも自分が似ていないことを気にしていたこと、大人がヒソヒソ言っているのを知っていることを、泣いているせいでうまく文章にならない口と子供らしい舌ったらずな感情のままに答えた。


「ママは全部ちゃいろなの、パパは全部きんいろなの。でも、でも、アリスは違うんだもん」


ただひたすらに首を振る私を、母が、痛いほどの力で抱きしめた。


「アリスちゃん、アリスちゃんはね、本当に、ママの子なのよ」


頭を撫で、母らしくなく震える声で、母は言った。


「ごめんねぇ…ママが、おんなじに産んであげられなくて。そんなことを言われていることに、気付けなくて。わかってあげられなくて…ごめんね、ごめんねぇアリス…」


母が本当のことを言っているのだと、そう気付いた私は、さらに泣いた。

母と二人、ひとしきり庭で泣いて、気付いたら母の腕に抱かれたまま、眠っていた。


その翌日、笑顔なのに座った目の両親に、悪口を言っていた男爵が誰なのか、ヒソヒソした大人は知っている人かなどを聞かれ、素直に答えた。


「そうなの、ベスト男爵が…。あら、ヤマー男爵夫人にグアリッヒ子爵? そう」


「うんうん、クレバス侯爵もか。そうか…」


ニコニコと私の話を聞きながら、父は名前をメモしていく。


「ごめんねアリス。私としたことが、そんなことに気付けなかったとは…」


「いいえワイズ。私も気付けなかったわ。まさか、本人の前でなんて! お茶会でも話は出なかったし…」


ガタン!と音を立てて立ち上がった父は、ひしっと私を抱きしめて


「大丈夫、もうそんなこと誰にも言わせないよ」


と、そう言った。

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