第13話 二章♢ありがちなラブロマンス 01

「お父様! お母様!」


「「アリスちゃぁ〜〜〜ん!♡」」


神殿正門付近にドーナツ状の人だかりが見える。そのドーナツに向かって手を振ると、中心部分から私の名を呼ぶ声が響いた。周囲のザワザワが搔き消える甘ったるい声が、神殿正門の私を取り巻く空気を体感マイナス2℃ほど冷たくした。

中央の声につられて、ドーナツと化していた群衆がちらほらとこちらを向く。

ぎょっとした顔の群衆の何人かと目が合うが、あえて無視する。視線が雄弁に語る『驚きと好奇心』なんて、見飽きているのだから。

どうせ、私は両親に似ていませんよ。それが何か、と言う態度で、フンと鼻を鳴らした。


「お嬢様、お疲れ様で御座いました。」


スッと影のように現れた執事服の青年──アルバスが、私が群衆の影になるように立った。アルも慣れているので、何も言わなくてもしっかりと立ち位置を理解してくれている。

私が生まれた時から一緒に居るアルは、幼馴染であり兄のような存在であり、私専属の執事だ。だから、私が幼い頃から『両親のどちらにも似ていない中途半端』なことを気にしていることを知っている。それを察して、こういう両親と一緒にいる、尚且つ人の視線が多い時はできる限り、盾になってくれる。


「うん、ありがとう」


二人がここまで辿り着くのはもうちょっとかかるかな、とアルに同意を求めると、頷かれた。無言の肯定だ。

群衆に声をかけながらこちらに向かってくる父と母を眺めながら思う。


王子様とお姫様、という言葉がこれほど相応しい容姿の人間も、そういないだろう、と。


いやまぁ、父は王子でも国王でもないし、母もどこかの国のお姫様ではない。

だが、傍目から見た二人は、本当に小説や吟遊詩人の歌う王子様とお姫様なのだ。

金糸の髪に光が差すと白く輝く白金の瞳。あの天使と同じ特徴の美人の父。この国では珍しい、ウェーブのかかった栗色の髪に扁桃の眼を持つ小顔で可愛らしい母。

10歳の子供がいるとは到底思えない美貌を持つ父母に、小さくため息をついた。


その二人の間に生まれた私はというと、母譲りのゆるい波を打つ──白髪にほど近い金髪。誰にも似ていない、玉虫色の眼。キツめのツンとした目に合わない童顔、というアンバランスな顔。

見事に両親に似ていない私は、幼い頃から自分の容姿が、大嫌いだ。

前々世の記憶が戻ったことで、少し客観的に見れば美少女だと思う。”ツンデレの似合いそうなお嬢様”といった容姿。

でも、やっぱり両親に似ていないということは、それだけでコンプレックスになる一因だ。

大人にあれこれ言われることも多かった幼少期に、あまりいい思い出はない。

サラの5歳の誕生日を祝うという名目のパーティーで、両親に媚を売りにきたある男爵が、親に見えぬところで私に囁いた。


「いやはや、”養子”のためにこれだけ盛大なパーティーを催すとは…。流石、慈悲深いですな」


その言葉を聞き、私が動揺して持っていたグラスを落とすと、わざと大仰に驚いて、甲斐甲斐しく私を介抱し心配するフリをした男爵に、両親はお礼なぞ述べていた。

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