第12話 幕章01◇神の策略と天使の陰謀
白金の波打つ髪、翠玉の瞳。小柄で可愛らしい顔立ちは母親に似ている。だが母親と違いハキハキとした大人顔負けの物言いをする少女。
それもそのはず、たった今、少女は神によって過去の記憶を引き摺り起こされたのだ。無理に引き上げられた記憶に引き摺られて、少女の人格が揺らいでいる。過去27歳だった自分と、若くして死んだ自分の記憶が、少女の幼い人格に波を与えてしまったのだ。だが、これも記憶が定着するまでの少しの間だけ。記憶が定着すれば、少女本来の人格が他の記憶人格を「過去の記憶」として押しとどめるだろう。
海のような蒼い髪を足まで落とした男性──いや、男性の姿をした神、アクアエリオスがふぅ、とため息をついた。
「さて、これでこの件は落ち着きました。協力感謝します。」
「あーあぁ。サラにはアタシの加護をあげたかったなぁ〜」
紅い炎のような髪を指先に絡ませながら、フレイアがぼやく。それに同意するように、グラインドが好々爺の表情で深く頷いた。
「ありゃとんでもない成長をするなぁ。鍛治をさせたら国宝を
「弓師も、合いそうだった、ねぇ」
「それを言うなら戦略師にも適性がありますよ。あの子が居れば負け戦になることはないでしょう」
「参謀でありつつ前線で指揮を執り、戦場を駆ける女騎士ってのも合いそうじゃん!」
「いや、後方で魔法と弓を駆使すると言うのも…」
喧々諤々と神々が喧騒を生み出す中、エーテルコラは一人唇を尖らせていた。
拗ねています、と言うのが分かるようにか、わざわざ空で膝を抱えている。
「ひどいわぁ。私だけ嫌われるようにしてぇ。」
指で地面を擦るエーテルコラに反応する者は誰もいない。自業自得の結果ではあるものの、少女の最後の小さな復讐に、思ったよりも心抉られていたようだ。
「…あっ! いいこと、思いついちゃったわぁ!?」
「……どうせまた、『皆で
この色情魔は…と言う顔で、アクアエリオスがエーテルコラを睨んだ。なんのかんの言いつつ、アクアエリオスはエーテルコラを気にかけている。他の神が全く聞いていなかったエーテルコラの言葉に、唯一反応したのだから。
「違うわよぉ! あのねあのねぇ?」
「私の加護を持つ子とサラちゃんをくっつけちゃえばいいのよぉ!」
──バッ!
全員が、一斉にエーテルコラの方を振り向いた。
「そうか…そうすれば、また、あの子と会っても、不自然じゃない…」
「で、ですが仮にもこの世界の神が一人の人間に肩入れなど」
「自分の加護を持つヤツの伴侶なら会ってもおかしくないよ! いいコト考えんじゃんエーテ!」
「そうじゃなぁ、間接的に関わってしまうっちゅうのは、不可抗力じゃ。仕方ないなぁ?」
「そうよぅ! 直接肩入れするわけじゃないんだもの〜!」
ワイワイと和気藹々とした雰囲気になってきた。ここいらで、誰もが自己中心で自分のことしか考えていない、この間の抜けた神々の作戦を実行するにあたり、アンタらにとって大事なことを思い出させてやろうか。
「…で、”誰の加護持ち”をアリスとくっつけるんスか?」
ビシリ、と空間に亀裂が走った。比喩でなく、本当に。
神界で神の意識が対立したことを意味する断裂の傷が、さっきまで和気藹々としていた五神を分断する。
今頃下界では天気が大荒れしているか、天変地異が起きているんじゃないだろうか。
「仮にもオレの加護を受けた可愛いアリスとくっつけようっつーんですから、半端なヤツは許さねっスよぉ」
欠伸をするフリ。この呑気な神々を焚きつけるには十分な演技だ。
全ての神が慌てたことを隠しながら、なんともないような顔で思い思いの方向をみる。
「…我々が戦争するわけにも行きませんし、ここはどうでしょう? 平等に、全員をサラと会わせてあの子に決めてもらうと言うのは?」
「さんせ〜! あ、魔法で加護持ちをサラに惚れさせるとか、加護持ちに魅了魔法持たせるとか禁止だから!」
「勿論よぉ、私の加護を持ってるならそんなの必要ないものぉ」
「勿論、加護持ちの心を操ってサラに惚れさせるのも、嫌わせるのも、禁止、だね」
「正々堂々、正面から、か。嫌いじゃあないのぅ」
ニヤリと笑ったグラインドの了承を皮切りに、バタバタと各々が自身の加護を持つものたちに慌ただしくコンタクトを図ろうとし始める。
自然にサラを好きになりそうな、そんな素質のある魂を探して。
あーあ、始まっちゃったっスねぇ。可愛い”
アハ、それにしても、面白いくらい皆アリスに夢中っスねぇ。
騎士、参謀、鍛治職人、弓師、魔法士……どれもこれも簡単に与えられる加護じゃぁない。全てをアリスに与える、なんて『罪滅ぼし』にしては大盤振る舞いすぎる。アリスの過去・そして今を直接見た彼らがアリスに……”彼女の綺麗な魂”に惚れ込んでしまうのも致し方ないけれど。
ま、変なヤツにホイホイあげる気も、譲る気もないっスよ?
可愛い可愛いアリスは、”生まれる前”から、オレが目を付けていたんスから。
その為に、フレイアの趣味のログにアレクサンドライトの過去を割り込ませた。こうして会う機会を作り、不自然でないようにオレの加護を与えるために、散々裏で『仕事』したんスからね?
今もこうして、彼女に最高の出会いがあるように神を焚き付けて──
「フフッ、可愛いアリス、良い出会いを。」
「願わくば、君の生涯が最上の幸福で溢れるように。そして──」
胡座に肘をつき、苦笑した。
これ以上は、オレの心に留めておこう。
──そして、今度こそ。
今度こそ、オレが守ってみせる。オレのものに、してみせるよ。
「アハ、楽しみにしてるっスよ、有栖」
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