第36話

 その頃、崖下にある屋敷では、裏社会の組織のボスたちが一堂に会していた。

 それは定例のブランチミーティングだったのだが、緊急会議に変わる。


 いつもその会合に参加している、ハイランダー一族の長を問い詰めていた。


「ヒラクル殿、これはどういうことなのだ!?」


「そなたの一族のスカイとかいう者が、我らの娘をみんなさらっていったのだぞ!?」


「全組織を総動員しているが、スカイはまだ見つかっておらん!」


「まさか、ヒラクル殿がかくまっているのではなかろうな!?」


 ヒラクルは「まあまあ」となだめるように両手を動かしながら答える。


「みなさん、落ち着いてください。

 我が一族のスカイのことでしたら、昨日、処分いたしました。

 ヤツは無能のクセに野心だけは強いようで、我がグループの『ハイランダー運送』に、ずっと嫌がらせをしておりました。

 とうとう王族を毒殺する罪まででっちあげてしまったので、『追放』したのです。

 おそらくヤツは自暴自棄になって、馬車の配達途中に衝動的に凶行に及んだのでしょう。

 我がハイランダー一族も総力を結集してスカイを探しておるところです」


「ううむ、そういうことだったのか!」


「我ら裏社会のルールでは、破門にした構成員の責任を問うことはできん!」


「むしろこれは、ヒラクル殿への復讐なのかもしれんな!」


「部下にはスカイを見つけ出し次第、この屋敷に連れてくるように伝えてある!

 我らのかわいい娘たちをさらった者がどうなるか、骨の髄まで……ん?」


 この会合は大きな庭が見渡せる会議室で行なわれていた。

 ランスロットの父は、庭に何かが降りてきているのに気付く。


 それはなんと、1台の馬車っ……!?


「なっ!? なんで馬車がこんな所に!?」


「あっ!? 御者席にランスロットがいるぞ!?」


「馬車の中にはワシらの娘だっ!」


「ということは、御者席にいる男がスカイということか!」


「待て! 馬車の屋根に吊し上げられているのは、アングラーではないか!」


「アングラーがなぜ、あんな所に!?」


 驚愕に包まれるボスたち。

 ヒラクルはとっさに声を荒げた。


「そんなことよりも、飛んで火に入る夏の虫ですぞ!

 早く人手を集めて、誘拐犯のスカイを殺してしまうのだ!」


 ランスロットの父のコールを受け、屋敷じゅうの手下たちが馬車のまわりに集まってきた。


 スカイは敷地内を馬車で爆走して逃げまくる。

 ギャルたちは槍を手に手に、追いすがる手下たちを小突きまくっていた。


 ランは馬車にしがみついてくるチンピラどもを槍で叩き落としながら、快活に笑う。


「きゃははははは! ママの言ってたとおりだった! 走ってる馬車でヤリまくると、振動が加わって超キモチいいーっ!」


 その大立ち回りを屋敷の中から眺めていた裏社会のボスたちは、不思議に思う。


「なぜ、我が娘たちがスカイの味方をしているんだ!?」


「しかも、『槍』まで使っているぞ!

 裏社会の女が『槍』を使って男を守るのは、生涯を添い遂げると誓った男にだけ許されるというのに!」


「まさか娘たちは、スカイを夫として認めたのか!?」


「そんな!? まだ若いとはいえ、我らの娘はみな『裏社会の女』!

 そんじょそこらの男にはなびかないはずだ! ワシらのような、本物の男でなくては!

 しかもひとりだけならいざしらず、この国の裏社会のボス全員の娘をモノにするなんて……!」


「きっ……きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 その場にいたヒラクルが、突如として怪鳥のような奇声をあげた。

 まるで朝日に焼かれるドラキュラのように、頭を押えて苦しんでいる。


 白くなった髪がボロボロと抜け落ち、シワの増えた肌が樹皮のように干からびていく。


「ひ、ヒラクル殿っ、いったいどうしたのだ!?」


 ヒラクルは骸骨のように落ち窪んだ眼窩から、デメキンのように飛び出した瞳をギョロリと向ける。

 瞳をグルグルと回しながら、両手を広げて叫んだ。


「きっ、キヒヒヒヒヒ……! あっ、あれが……! あれが我がハイランダー一族の期待の星、スカイだっ!

 きっ、きっとスカイはアングラーに濡れ衣を着せられたのだ!

 しかしスカイは見事、黒幕であるアングラーを突き止め、ああしてご令嬢たちを助けたのであろう!

 スカイが追放したというのは、全くのウソ!

 裏切り者であるアングラーを油断させるためにワシが流した真っ赤なウソでぇーっす!

 スカイは昇進! 昇進! しょうしーんっ!

 アングラーは追放! 追放! ついほぉーーーーっ!

 キヒヒヒヒヒヒヒーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


 腹を抱えて天を仰ぐヒラクル。

 歯がボロボロと抜け落ち、落果した木の実のように足元にパラパラと転がる。


 彼の言葉がまともに聞き取れたのは、それが最後となった。


-------------------爵位一覧


大公

 ヒラクル


侯爵

 ↑昇格:スカイ


伯爵


子爵


男爵

 タランテラ


廃爵


追放

 ↓降格:アングラー


 アギョとウギョ

 フロッグ

 ブルース


-------------------

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