第34話
休憩が終わったところで、ランは俺に新たな指示を出した。
「んじゃあさ、次はこの裏山の頂上にある崖に連れてってよ」
「そんな所に行ってなにすんだよ」
「ヤリサーの活動に決まってんじゃん。
馬車の扉を全開にして、屋敷を見下ろしながらヤリまくるのってサイコーなんだよね!
パパもまさか、頭の上で娘がこんなことしてるって想像もしてないっしょ!
そう考えると超ウケるよね、きゃはははははははっ!」
もはやコイツの考えにはついていけなかった。
さっさと言われたとおりにして、自由にしてもらおう。
頂上の崖に向けて馬車を走らせていると、麓のほうからゴトゴトと馬車が駆け上ってくる音がした。
その馬車はあっという間に追いついてきて、俺たちの馬車と併走をはじめる。
御者席には、俺をこんな目に遭わせて元凶が座っていた。
「ぐらぐらぐらぐら! ランよ! グラからのプレゼントは気に入ったか!?」
「あっ、アングラー! もう超サイコー! 超刺激的で、みんなも超コーフンしてるし!」
「そうか、ならこの危険な男アングラーを、『ヤリサー』に入れてくれるか!?」
「うーん、もうひと息ってとこかなぁ? アングラーってば自分で言ってるほど危険な男ってわけじゃないし!
っていうか、そもそもたいした男じゃないし!
ウチらとヤリたかったら、もっとウチらを楽しませてよ!」
あまりにもあけすけな評価であった。
歳下のギャルから酷評されたアングラーは、ぐぬっ、と一瞬歯噛みをする。
しかしヤツはよっぽどヤリサーに入りたいのだろう、無理やりにニヒルな笑いを取り戻すと、
「なら、サイコーの刺激をプレゼントしてやるよ!
この山の頂上にある崖を使って、グラとチキンレースで勝負だ!」
「チキンレース!? それってば超刺激的じゃん!? やるやるっ!」
勝手に話を進めるふたりに、俺は割り込んだ。
「ちょっと待て! 俺を巻き込むな! やりたきゃお前らで勝手にやれよ!」
「ぐらぐらぐら! 始める前から怖じ気づくとは、スカイよ、チキンなのは変わっていないな!」
「スカイってばノリ悪っ! 童貞で空気読めないなんてサイテーじゃん!
刺激が欲しくないの!? だからいつまで経っても童貞なんだって!」
その一言に、俺はガラもなくカチンと来てしまった。
今日はギャルお嬢様に振り回され続けて、ずっとイライラしてたんだ。
「そこまで言うならやってやるよっ! だが、落ちても知らねぇぞっ!?」
「いま、パパの屋敷には裏社会のボスたちがみーんな集まってるんだよ!
そこに落ちるなんてサイコーに刺激的じゃん! ひゅーひゅーっ!」
ランは御者席から立ち上がると、俺の足を跨ぐように立って扇情的な腰振りダンスを踊り始める。
見ると、馬車に乗っていたギャルたちもみんな箱乗りをして拳を振り上げていた。
「くっ、狂ってる……!」
「ぐらぐらぐらっ! しょせんは使用人だったスカイは、グラたちとは住む世界が違うようだ!
グラたち裏社会の人間には、これが日常……! ウェルカム・トゥ・アンダーグラウンドっ……!」
俺とアングラーは競いあうようにして頂上を目指す。
最後の坂を登り切ると、地平線のような開けた崖が見えた。
俺はそろそろ馬のスピードを緩めなくてはと思い、手綱を引く。
馬はその足並みを揺るやかにしようとしたが、後ろからきた馬車に押されて無理やり走らされていた。
「ぐらぐらぐらぐら!
かかったな! その馬車は一定以上のスピードを出すと、しばらくその最高速度を維持しようとする仕掛けがあるのだ!」
「なっ、なんだと!?」
「ちょっと、それマジっ!? それじゃあマジで崖から落ちちゃうじゃん!?
まさか最初から、ウチらを殺すつもりだったの!?」
「ぐらぐらぐらぐらっ! 今頃気付いたか、ビッチどもめ!
この俺がどれだけ尽してやったと思ってるんだ!
それなのに貴様らときたら、ヤリサーに俺を入れようとしない……!
手に入らぬものなら、すべてブッ壊してやって、その罪をスカイに着せることにしたんだよっ!
しかしまさか、ここまで見事に引っかかってくれるとはなぁ! ぐらぐらぐらぐらぐらっ!」
ランは青ざめた顔でポケットから鍵を取り出すと、俺の手錠を解錠した。
「に、逃げて、スカイっ! スカイってば、ジャンプが得意なんっしょ!?
だったらスカイだけでも逃げて……!」
「そういうわけにはいくかっ!」
一緒に乗っているのがランだけなら、抱えてジャンプすればいいことだ。
しかし馬車に乗っている他のギャルたちを抱えてジャンプするだけの猶予はもうない。
たとえ俺を童貞だとからかったギャルでも、見捨てるわけにはいかないっ……!
「逃げてっ! 逃げてぇ!」と泣きすがるランをよそに、俺は手綱をしっかりと握りしめる。
崖にむかっていちかばちか、俺は叫んだ。
「とっ……飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
次の瞬間、馬車は崖っぷちを蹴った。
そしてそのまま、見えない坂道が続いているかのように、空中を……!
「とっ……飛んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
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