第30話
評議会は急転直下の兆しを迎える。
とんでもない先走りをしてしまったと、ヒラクルの背筋に冷や汗が浮かぶ。
「お……オミネリア様、そ、それはいったいどういうことなのですかな?」
先を促すと、オミネリアは不思議そうな顔をして続けた。
「昨晩、スカイ殿は乳母のナニーナが作ったという、ニシンのパイをフロイランに差し入れてくれたそうじゃ。
そしてフロイランのなかにあった、ナニーナとの確執を解いてくれたそうなんじゃ。
私は執務があって、誕生パーティには遅れて参加したのだが、その時はスカイ殿はおらんかった。
でも、フロイランは子供の頃のような笑顔を取り戻しておった。
この私や妻がいくら取り除こうとしても、できなかった心のわだかまりを、スカイ殿はあっさり取ってみせたのだ」
オミネリアは、感極まって立ち上がる。
「私は王位継承順などとというつまらぬものにこだわって、ずっと意地を張ってきた……!
しかしスカイ殿は違った!
スカイ殿は本来であれば、ラブライン様のご機嫌だけを伺っておればよいはずなのに……。
王位継承順の2位である我が娘までにも、その大いなる心を示したのだ!
私はスカイ殿の『おためし婚』には反対の立場であったが、それはとんでもない間違いであった!
スカイ殿こそ、この国の王にもっとも相応しい人物である!
今ここに、全面的に『おためし婚』に賛成しようっ!」
「おっ……おおおおおおーーーーーーーーーーっ!?!?」
評議会はかつてないほどの驚嘆に包まれる。
無理もない。国王と王位継承順の2位の家系というのは、対立する宿命にあった。
それなのにスカイは、王室に脈々と受け継がれてきた内部抗争の歴史を、あっさりと終わらせてみせたのだ。
これを偉業といわず、なんと言おう……!?
国王は目を見張った。
――なっ、なんと……! 余の反対派の最大派閥である、オミネリア家が賛成するとは……!
オミネリアは今まで一度たりとも、余の政策にはウンと言わなかったのに……!
それを、こうもあっさりと……!?
す……スカイ殿は、余が足元にも及ばぬほどの、深大なる王の器だというのか……!?
評議会内に、兵士が駆け込んでくる。
「た、大変です! 昨晩、オミネリア様のお屋敷の庭に埋まっていた不審人物が、毒薬の入った瓶を持っておりました!
尋問をしたところ、アギョ伯爵とウギョ伯爵から、フロイラン様の毒殺を命じられたと白状しました!」
「なっ……なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
権力者たちの視線は、一斉にヒラクルに集まる。
「ヒラクル殿、アギョ伯爵とウギョ伯爵といえば、ハイランダー一族の者ではないのか!?」
「それにそなたは先ほど、スカイ殿が毒殺の犯人だと申しておったな!?」
「しかしスカイ殿はオミネリア様を感服させるだけの活躍をし、アギョとウギョはオミネリア様の愛娘である、フロイラン様を狙った……! これは、どういうことなのだっ!?」
針のむしろに串刺しになったカエルのように、脂汗が止まらなくなるヒラクル。
両手をわたわたと振って言い訳した。
「えっ、えーっと、あのあのあの、その、えーっと。
こここっ、これは、えーっと……どっ、ドッキリでしたぁーーーーーーーーーーーーっ!!
さっ、最近この評議会はちょっと険悪な雰囲気でしたので、場を和ませようと思いましてぇ!!」
中年をとっくに通り越しているヒラクルは、若者のようにおちゃらける。
それは見ていて実に痛々しかった。
その白けた雰囲気をすぐに感じ取ったヒラクルは、キリッとした族長の表情を作ると、
「アギョとウギョはおそらく、我が一族の期待の星であるスカイを妬み、今回のような浅はかな行為に及んだのでしょう!
聞けばスカイの営む『運び屋スカイ』はアギョとウギョの担当する『ハイランダー運送』のシェアを奪っておったそうですからな!
でもワシは常日頃からアギョとウギョには言っておったのです!
同じ一族である以上、つまらぬ足の引っ張り合いなどせず、正々堂々としたビジネスで切磋琢磨するように、と!
しかしアギョとウギョはワシの気持ちを無視し、凶行に及んだ……!
王族の毒殺を企むなど不届き千万っ! よってふたりは『追放』といたします!
フロイラン様の笑顔を取り戻したスカイはもちろん昇格で、『伯爵』にいたしました!
うぇーいっ! やったぁーーーーっ! ぱちぱちぱちぃーーーーっ!!」
若者ぶってはしゃぐオヤジキャラで、その場をなんとか乗り切る。
その様は哀れとしか言いようがなく、全身は脂汗で滝に打たれたようにびっしょり。
顔はやせこけ、黒々としていた髪には白髪が現れ、一気に10歳は老けて見えたという。
-------------------爵位一覧
大公
ヒラクル
侯爵
伯爵
↑昇格:スカイ
子爵
男爵
タランテラ
廃爵
追放
↓降格:アギョとウギョ
フロッグ
ブルース
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