第20話

 小一時間後、『運び屋スカイ』の前では新装開店イベントが行なわれていた。


「さぁさぁ! 新装開店を記念して、『人間スイカ割り』ゲームが遊べるよーっ!」


「地面に埋まった悪い子を、たくさん叩いちゃいましょうね~っ!」


「たくさん叩かれた方には、割引券をプレゼントさせていただきまーす!」


 呼び込みをするアイリス、ナニーナ、ラブマニティ。

 集まってきた近隣住民たちは、嬉々としてゲームの列に並ぶ。


「いやぁ、最近ハイランダー運送のヤツらには困ってたんだよね!」


「荷物をハイランダー運送に持ってこないと脅してきたり、嫌がらせをされてたんだ!」


「ヤツらをこうやって懲らしめられるだなんて、最高だな!」


「荷物を出すなら、『運び屋スカイ』で決まりだね!」


 スカイの『ヘッドジャンプ』で埋没させられたチンピラたちは、ハリセンでシバかれまくっていた。


「ぎゃああっ!? いたいいたい! いたーいっ!」


「もうやめて、もうやめてくれぇぇぇぇぇ!」


「もうしません! もうしませんから、ここから出してぇーーーーーっ!!」


 ……などと一時は反省する素振りを見せていたが、彼らの嫌がらせは止むことはなかった。


 しかしチンピラ撃退により、それまで逃げていた従業員たちが戻ってくる。

 彼らもまたチンピラに脅され、やむなく『ハイランダー運送』で働かされていた者たちであった。


 従業員が増えたことにより、対応可能な荷物が増える。

 さらに新社長となったスカイは新たな営業所の設立をし、対応エリアも増やしていく。


 すでに『運び屋スカイ』は女性陣たちのきめ細やかなサービスと、スカイの迅速な配達によって好評を得ていた。

 よって下層階級エリアにおいて破竹の勢いを発揮し、『ハイランダー運送』を駆逐する勢いにまで急成長。


 その時にはすでに、スカイの中でとある決意が固まっていた。

 『ハイランダー運送』を、この国から一掃する、と。


 そしてついに、中層階級エリアへの進出を決意する。

 しかしこれは自分ひとりの意思で決められることではない。


 ボロアパートの食堂で、夕食を取っているときに女性陣たちに相談した。

 すると、レディバグがこんなことを言った。


「ならば俺がまとめている騎士団を動かして、力を貸してやろう。貴様には多くの借りがあるからな」


「いや、できるならそれはやめておきたいんだ」


「なんだと? 騎士の力があれば、中流階級エリアの貴族を動かすことなどたやすい。

 そうなればすぐに……」


「いままで俺はハイランダー一族の中にいて、権力によって多くの者たちが虐げられるのを見てきた。

 俺がここで権力に頼って対抗していたんじゃ、ヤツらと同じ穴のムジナになっちまう。

 だから俺は、俺とお前たちだけの力で戦ってみたいんだ。

 現に俺たちは、配送サービスや人間性だけで、下層階級エリアの支持を得てきた」


 そしてスカイは言葉を切る。

 これこそが大事なのだと、言外に告げるように。


「そうやってしがらみない成長こそが、先代のアイロスさんが望んでいることだと思う。

 それに俺は『おためし婚』の最中なんだ。もしここで権力に頼ったりしたら、私情で権力をふりかざす人間になってしまう。

 そんな人間は、王の器じゃないと思うんだ」


 言い終えてアイリスとラブマニティのほうを見やるスカイ。

 スカイの両脇に座っていたふたりの少女は、ぼろぼろ泣いていた。


「ど、どうしたんだよ、急に泣いたりして」


「うっ……! うううっ……! いまのスカイ、まるでボクのパパみたい……!

 正々堂々としてて、力強くて、やさしくて……!

 やっぱりボクは間違ってなかった! スカイを好きになって、本当によかった!」


「うっ……! うううっ……! 実はわたくし、不安だったのです……!

 スカイ様はわたくしとの『おためし婚』に、乗り気ではないのではないかと……!

 でも、でも、こんなにも立派なお言葉をいただけて……!

 わたくしは、スカイ様をますます好きになってしまいました!」


 「わあーっ!」と大泣きでスカイの胸に飛び込むアイリスとラブマニティ。

 困惑するばかりのスカイに、ナニーナが母のように微笑む。


「スカイさん、女の子が泣いてすがってきたときは、頭を撫でてさしあげるものですよ」


 ナニーナに促され、スカイはふたりの頭をよしよしと撫でてやった。

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