第18話

 突如として天から降り注いだもの。

 それはまさに神の鉄拳、いや鉄蹴であった。


 その一撃は神使いタランテラを巨大蜘蛛の上から蹴り飛ばしたうえに、地面に深く埋没させる。


「いやああっ!? なっ、なにっ!? なにが起こったのぉーーーーーーっ!?

 助けてモクちゃん! 助けてぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 しかも顔に足跡まで付けられたタランテラは、地面から顔だけ出してもがいていた。

 そしてペットである巨大蜘蛛に助けを求めるも、もはやピクリとも動かない。


 やがて蜘蛛は中心からスッパリと切れ、グロテスクな断面を晒しながら崩れおちた。


「あああっ!? 私のモクちゃんが、モクちゃんがぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?!?」


 半狂乱になって喚くタランテラのそばには、ふたりの男女がいた。

 男は女を抱きかかえ、男は女に全てを任せるようなポーズで剣を構えている。


 フィギュアスケートのペア競技における、完璧に決まったフィニッシュのような、美しいその姿。


 女はいままで感じたことのない、未知なる快感にうち震えていた。


「きっ、気持ち、いいっ……! 高いところから斬りつけるのが、こんなに気持ちいいだなんて……!」


 紅潮しきった顔をあげると、男と目が合う。


「レディバグ、お前の剣があったおかげで、蜘蛛も一緒に倒せた。

 怖かったろうに、俺を信じて付き合ってくれてありがとうな」


「は、はひっ! スカイ様っ……!」


 レディバグは国王に褒められたとき以上の随喜を感じ、思わず涙ぐんでしまう。

 しかしハッと我に返ると、スカイの身体から飛び退いた。


「こ……この俺に怖いものなどあるものか! 俺は王宮騎士のレディバグだぞ!

 貴様の頼りないスキルでは心配だったから、力を貸してやったのだ!」


 レディバグは服の袖でぐしっと涙を拭う。

 しかしスカイの顔をまともに見ることはできず、顔をそらす。


 とっさに目に入った兵士たちに意識を逃がした。


「み、みなの者! 遅れて悪かったな! でもこのおとり、仇は取ってやったぞ!」


 レディバグが剣を掲げると、兵士たちがワッと集まってくる。

 その喜びは観客席にも伝播し、大いなる歓声が生まれた。


「うおおおおおおおーーーーっ!! すげえすげえ、すげぇぇぇぇぇぇーーーーっ!!」


「あの『テングノハウチハ』を、神使いごと倒しやがった! しかも一撃で!」


「フロッグを倒したときは偶然だと思ったんだが、こりゃ偶然じゃなんかじゃねぇ!」


「ああ、とんでもねぇ強さだ! あの運送会社の制服を着たヤツ、何者なんだ!?」


 しかしスカイは客席じゅうの熱狂と興味が自分に向けられているとも知らず、配達を再開するためさっさと飛び去ってしまう。

 「ああっ……!?」と残念そうな声が漏れる。


 貴賓室にいた国王は大空に手まで伸ばしてすがっていた。


「ああ、スカイ殿が行ってしまった……! もっと近くで顔を見たかったというのに……!

 しかし、すさまじいスキルの破壊力であった!

 あのスキルであれば、『ハザマノカミ』を一撃で倒したのも頷ける!」


 王は興奮さめやらぬ様子で、眼下の客席に向かって喧伝する。


「見たか、皆の者! あの者こそが我が国の希望の星である、スカイ殿だ!」


 国王から『希望の星』と呼ばれる……これは最大の賛辞といっていい。

 ヒラクルはキリッとした表情で国王の隣に並ぶと、すでに王族のひとりとなったかのように、手をかざして続ける。


「スカイは、我がハイランダー一族の希望の星でもある!

 今回、その実力を知らしめるためにタランテラと戦わせてみたのだが、かませ犬にもならなかった!

 しかもそんな無様な姿で敗北するとは、恥さらしにも程がある!

 よってタランテラは1段階の降格とし、かわりにスカイを子爵とするっ!」


「うおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 タランテラは「そんなぁぁぁぁぁーーーーーっ!?!?」と泣き叫んでいたが、その絶叫は歓声によりかき消されていた。

 ふと、国王がヒラクルに問う。


「ヒラクルよ、そなたは先ほどまで、スカイのことを臆病者呼ばわりしていたではないか」


「えっ、えーっと、そうでしたかな?

 あっ、それは臆病者ではなくて、オーク病者と申したのです!」


「おーくびょうもの? なんだそれは?」


「えっ……えっと、えっとえっと、えーっと……。

 スカイは奇病を患っておりまして、オークのような顔をしているのです!

 それでなるべく顔を見られないようにと、戦いの場にはいつも遅れて来て、終わったらさっさと行ってしまうのです!」


「なるほど、オークのような顔ではその気持ちもわからなくはないな。

 しかし意外であったな。ラブラインは、オークのような顔の男が好みであったとは……」


-------------------爵位一覧


大公

 ヒラクル


侯爵


伯爵


子爵

 ↑昇格:スカイ


男爵

 ↓降格:タランテラ


廃爵


追放

 フロッグ

 ブルース


-------------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る