第17話

 レディバグの身体はスカイの『ジャンプ』によってあっという間に大空にさらわれる。

 女騎士はひとりの少女に戻ってしまったかのように喚いてた。


「きゃあっ!? きゃああっ!? きゃああああああああーーーーーーーーーーーーーーっ!?」


「お、おい、暴れるな! 落ちる落ちる落ちる!」


 すると、ひしっ! とスカイの胸にしがみつくレディバグ。

 身体をこれでもかと縮こませ、ずっとカタカタと震えていた。


 いつも肩肘を張って堂々としている彼女なら、空中でも鷹のように鷹揚としているだろうとスカイは想像していた。

 しかし今の彼女は、鷹に連れ去られたウサギのよう。


「レディバグ……お前もしかして、高い所が苦手なのか?」


「そっ、そうなのっ! こっ……怖い怖い怖いっ! 怖いよぉっ、ママぁ!」


「だったらそう言えばいいのに……」


「まっ、まさかこんなに高くジャンプできるだなんて、思わなかったのぉ! せいぜい5メートルくらいかと……」


 おそるおそる顔を上げたレディバグに見つめられ、スカイはドキリとした。


 なぜならば、普段からは想像もつかないほどの弱々しい表情がそこにあったから。

 困り眉に潤みきった瞳、垂れた前髪はか弱さを一層引き立たせている。


「お、お願い、降ろして……! 降ろしてぇ……!」


「それはいいけど、もうコロシアムに着くぞ?」


「えっ!? もう!?」


「そうだ、みんながお前を待ってるみたいだぞ!

 フロッグの時みたいに、一撃で決めてやろうぜ!

 剣を構えろ、急降下するぞ! 準備はいいかっ!?」


「えっえっえっえっ!? えええっ!? 

 きゃっ!? きゃああああああああーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 時間は少し戻る。

 コロシアムでは今回のメインイベントである、『セイクルド王国兵士軍 VS 神使いタランテラ』の戦いが始まっていた。


 神使いタランテラは『テングノハウチワ』という巨大な蜘蛛型モンスターを操り、兵士たちを蹴散らしまくる。

 客席の最上階にある貴賓室には国王とヒラクルがいて、その一方的な戦いを見守っていた。


「ヒラクルよ、今回の試合は指揮官としてスカイ殿が参戦するのではなかったのか?

 だからこそ、我が軍団の一部を戦いに参加させることを認めたのだぞ?

 それに、余はスカイ殿をまだ見たことすらないから、その勇姿を見るのを楽しみにしていたのに……」


「いやはや、申し訳ありません。スカイにはしっかり申し伝えてあったのですが……。

 どうやらスカイは我が一族の『神使い』が相手と聞いて、怖れをなして逃げ出したようですなぁ」


「なんだと? スカイは『神狩り』であろう。なのに『神使い』を前に逃げたと申すのか?」


「もちろん、我が一族の『神狩り』にかぎってそんなことは決してありません。

 しかしスカイに限ってはどうしようもない臆病者でして……。

 『ハザマノカミ』を倒したというのは、おそらく偶然なのかもしれませんなぁ」


「なんと、そうであったか……!

 魔物を前に逃げ出すなど、『神狩り』の風上にもおけんではないか!

 ラブラインとの婚約は取り消しだ! いま行なっている『おためし婚』も止めさせねば!」


「はい、この国のことを考えますと、そのほうがよろしいかと存じます。

 スカイは即刻『追放』処分にして、ラブライン様にはかわりに、いま戦っているタランテラなどいかがでしょうか?」


「うーむ、タランテラ殿の操るモンスターに、我が軍の兵士はまるで歯が立っておらんな」


「そうでしょうそうでしょう、ご覧ください、神にまたがるタランテラの勇ましい姿を。

 あの姿を見れば、きっとラブライン様もお気に召されることでしょう」


 巨大な蜘蛛の上に跨がるタランテラは、ガキ大将の威を借りる腰巾着のように、剣を振り回しながら兵士たちを追い回していた。


「ウッフッフッフッフ! お逃げなさい、お逃げなさぁい!

 でも、逃げても無駄よぉ! みーんなこのモクちゃんの真っ黒な脚で全員串刺しにしてあげちゃうんだから!

 両手両足、そして顔、最後はお腹……!

 ウフフッ! あなたたちが助かることはもうないわねぇ!

 空から神様でも降ってこなければ……!」


 ……ドグワッ……シャァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」

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