第12話

 突然の出来事に、静まり返るコロシアム。

 あたりに響くのは、ひとりの男のノンキな声のみ。


「ここは……コロシアム? しまった、ついボーッとしてど真ん中に来ちまった」


 スカイは次の配送先であるコロシアムめがけてジャンプした。

 本来は外に着地するつもりだったのだが、フロッグのことを考えていたら闘技場のなかに着いてしまったのだ。


 スカイはあたりを見回し、肩から下が地面に埋没しているフロッグと目が合う。


「あ、フロッグ? 偶然だな、なんでこんな所にいるんだ?」


「ゲコオッ!? それはこっちの台詞だっ!?

 スカイっ! テメェなんで生きてんだよっ!? それにいきなり現れて、いきなり蹴ってきやがってぇ!?

 なんなんだ、なんなんだよ、いったい!?」


 フロッグはスカイの『ジャンプ』のスキルのことをまだ知らない。

 いちから説明するのも面倒だったので、スカイは適当に受け流す。


「ちょっといろいろあってな。スキルを使って高く飛んでみたら着地点にお前がいたんだよ」


「ゲコオーッ!? ふ、ふざけやがってぇ! さては観客席から抜け出して、仕返しをしにきやがったんだな!?

 この俺をこんな目に遭わせて、タダですむと思ってるのか!?」


「そう怒るなよ、『スキル無罪』って言葉を知らないわけじゃないだろう?」


「ゲコオッ!?」


 ふと、スカイの背後から声がした。


「お、おい……貴様はいったい何者なのだ?」


 振り向くとそこには、痺れて動けなくなっている女騎士がいた。


「俺はずっと目を閉じていたので見ていなかったのだが、いきなり大きな音がしたかと思ったら……。

 対戦相手が地面に埋まっていて、貴様が立っていた……。

 まさかこれは、貴様がやったのか?

 運送会社の制服を着ているから、とてもコロシアムの選手には見えぬが……」


 面倒なのが増えたな、とスカイは後ろ頭を掻く。


「えーっと、俺はスカイっていうしがない運び屋さ。ちょっと道に迷ったんだよ。

 俺は配達途中で急いでるから、あとのことはこっちのフロッグに聞いてくれるか。

 それじゃあフロッグ、後始末を頼む。

 あと、そんなに地面に埋まってると身体に毒だぞ」


「ゲコーッ!? お前がやったんだろうが! ここから出せっ! 出せぇーーーっ!」


「なに!? 貴様はスカイというのか!? ちょっと待て! おいっ!」


 首から上を悶絶させながら叫ぶフロッグと、痺れた手をかざして呼び止める女騎士。

 しかしスカイは立ち止まることなく走り去っていく。


 ちょうど飛び出してきた係員たちに配達の荷物を手渡すと、そのまま選手入場口から姿を消した。


 あとに残されたのは、地面に埋もれたままのフロッグと、倒れたままの女騎士。

 観客たちは唖然としたまま、口々にざわめく。


「な、なにがどうなってるんだ……?」


「男がコロシアムの外から降ってきて、あの『神狩り』のフロッグをドロップキックの一撃で倒すだなんて……」


「お、おい、あれ見ろよ! フロッグの顔!」


「踏まれた足跡がついてるぞ! それに、なんか字が書いてある!」


 フロッグの顔面に視線が集中する。

 そこには『根性なしガエル』と書かれていた。


 客席はどっと爆笑の渦に包まれ、フロッグはさらにもがき苦しんだ。


「ゲコォォォォォォーーーーーーッ!? 笑うなっ! 笑うなぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!

 くっ、くそおっ! スカイのやつめぇ、覚えてろよぉ! この屈辱は、倍にして……!」


 復讐に燃えるフロッグを、人影が覆う。

 それは、痺れから回復した女騎士であった。


「フロッグよ……。その前に、俺に与えた屈辱を忘れたわけではあるまいなぁ……?

 この屈辱、今から10倍にして返してやろうっ!」


 女騎士は剣を大上段に構え、フロッグの前に立つ。

 それは剣闘試合というよりも、一方的な虐殺。


 いやそれどころか、ただのスイカ割りであった……!


「げっ!? げこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 フロッグはこの試合に敗れた。


 しかも命乞いをして泣き叫び、カエルのマネまでして、女騎士から「斬る価値なし」と判断されての敗北。

 それはコロシアム史上もっとも情けない負け方で、観客たちからは大いに嘲笑される。


 当然このことはヒラクルの耳にも入り、ハイランダー一族の恥さらしとしてフロッグは『追放』を言い渡されてしまった。


-------------------爵位一覧


大公

 ヒラクル


侯爵


伯爵 


子爵


男爵

 スカイ


廃爵


追放

 ↓降格:フロッグ


 ブルース


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