第11話

 それから俺は、『運び屋アイロス』で働くこととなった。

 住まいもアイリスからの紹介で、格安のボロアパートを借りることができた。


 しかし格安だけあって下級階層エリアのはずれにあり、仕事場である『運び屋アイロス』からはかなり離れている。

 馬車でも1時間ほどかかる距離なのだが、俺にとってはひとっ飛びだからなんの問題もない。


 そして『ジャンプ』のスキルは配送にも大いに役に立ったので、俺は『運び屋アイロス』の制服姿で一日じゅう飛び回った。


 大手である『ハイランダー運送』などは、馬車を使って一度に大量の荷物を運ぶ。

 俺は『神狩り』パーティでの荷物持ちの経験を活かし、身体の何倍もあるバックパックを背負って大量の荷物を運んだ。


 ジャンプによる配送は馬車に比べて圧倒的に速く、しかも城下町の全エリアをカバーできる。

 いままでアイリスひとりだったときは、近隣の配送を1日に数件こなすので精一杯だったようなのだが、一気に100件もの配送が可能となった。


 おかげで『運び屋アイロス』は『速くて確実』という評判が広まる。


 すると『ハイランダー運送』のチンピラどもが、俺の配送を妨害してきた。

 しかしそれは、飛ぶ鳥を竹槍だけで落とそうとするのと同然の愚行。


 俺を捕らえるために配送の人手まで割いたようだが、成果はまったく挙げられず、シェアの差は縮まっていく一方であった。


 俺の新しい人生は順風満帆であったが、ある日、事件はおこる。

 配達途中にふと、ある人物のことを考えてしまったんだ。


 俺がこうしていられるのも、ある意味フロッグに崖から突き落とされたからといえる。

 フロッグのヤツ、今頃どうしてるんだろうな……?


 そう思いながら俺は、次の配送先めがけてジャンプしたんだ。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 そこは、王都にあるコロシアム。

 客席は今日も血に飢えた観客たちで埋め尽くされ、繰り広げられる戦いに熱狂していた。


 メインイベントは『神狩り』と王宮騎士との戦い。

 どちらも手練れの好カードで、しかも騎士は女とあれば盛り上がらないはずはなかった。


 しかし戦いが始まってすぐに女騎士は膝を付いてしまう


「くっ……! こ、この感覚は、まさか……!

 ハイランダー一族のコテージで受けた痺れ薬と、同じ……!


「ゲコッ! そうよ、ソイツはゲコが作った特製の痺れ薬よ!

 ブルースにも頼まれたから仕方なく作ってやったんだが、まさかヤツはお姫様をモノにしようとして、邪魔な護衛を始末するために使うとは思わなかったぜ!

 それでも全部殺してくれりゃ問題なかったんだが、あろうことかヤツは1匹仕留めそこねちまった!

 ソイツが誰かは、お前さん自信がよぉく知ってるよなぁ!?

 俺の痺れ薬がバレたらブルースの共犯ってことになっちまうから、こうしてコロシアムに引きずりだしてやったのよぉ!

 審判を買収して、戦い前に飲む誓いの酒に、同じ痺れ薬をたっぷりと盛らせてなぁ!」


「ひっ、卑怯な……! ハイランダー一族は、どこまで腐っているのだ……!」


「ゲココココ! なんとでも言え!

 ここでお前を殺せば証拠隠滅できるんだからなぁ!

 しかも王宮騎士に勝った手柄として、俺の『廃爵』を取り消してもらえることになってるんだ!」


「くっ……! 殺せ、ひと思いに……!」


 女騎士は息を詰まらせ、固く目を閉じる。

 しかし彼女に浴びせられたのは有情なる一撃ではなく、無情の嘲り笑いであった。


「ゲココココ! そうはいかねぇなぁ!

 コロシアムで負けた女がどんな風に殺されるのか、知らないわけじゃねぇだろぉ?

 たっぷり怖がらせて、たっぷり可愛がってやるぜぇ!

 お前が助かるには、空から神様でも降ってこなきゃ……!」


 ……ドグワッ……シャァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


「げこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」

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