第8話
ラブラインがブルースを告発したのはいちかばちかであったが、もはやブルースが狼藉者であるということは明らかであった。
しかし今のラブラインにとって、そんなことはどうでもよいこと。
むしろ『憧れの君』の名を知ることができたことで、頬をバラ色に染めていた。
彼女は急ききって国王に言う。
「お父様! わたくしはスカイ様のお嫁さんに、絶対なりたいです!
スカイ様以上に素晴らしい殿方など、この世にはおられません!」
国王は驚いた。そして喜んだ。
なぜならば、彼の娘であるラブラインは年頃だというのに男に興味がなく、ずっと結婚にも後ろ向きの態度だったからだ。
しかし今は違う。見えるようになったばかりの瞳をキラキラさせ、獲物を追う肉食獣のような意欲を見せている。
「お……おおっ!? ラブラインよ! ついに結婚してくれる気になったのか!
どうやら目が見えるようになって、生きる希望が湧いてきたようだな!」
「はい、お父様! スカイ様はわたくしの希望の星です!」
「はっはっはっ! スカイ殿ほどの勇者であれば、民にとっても希望の星となってくれるであろうな!」
国王と王女はすっかり意気投合、めでたいムードに周囲にいた家臣たちも歓喜する。
そのビッグウェーブにすかさず乗ったのは、手のひら返しにかけては右に出る者がいない男であった。
「国王様、王女様。スカイは我がハイランダー一族にとっても希望の星でありました。
きっとこの国をさらなる栄華へと導いてくれるでしょう」
もはや花婿の父のように、キリッとした顔で国王に寄り添うヒラクル。
国王は何かを思いだした様子で尋ねた。
「そういえばヒラクルよ、そなたはラブラインに狼藉を働いた者はスカイ殿だと申しておったな。
しかしそのスカイ殿は英雄で、本当の狼藉者はブルースであった。
そのうえ、フロッグはスカイ殿の功績を横取りしようとしていた……。
いったい、そなたの一族はどうなっておるのだ?」
「そ、それは……! ブルースが犯人かどうか確かめるために泳がせていたのです!
しかしラブライン様のお力添えのおかげで、ヤツの本性を暴くことができました!
フロッグはどうしようもない嘘つきでして、あわせて処分するつもりでおりました!」
ヒラクルは取り押さえられているブルースと、呆然と立ち尽くしているフロッグに厳しい顔を向ける。
「ブルース! ラブライン様に狼藉を働いた罪は重く、『廃爵』すら生ぬるい!
よって『追放』とする!
神狩りの一族に、狼藉者などいらぬ! 牢獄で惨めに朽ち果てるがいい!
そしてフロッグ! そなたの二枚舌などとっくの昔に見通していたわ!
そなたは『廃爵』とするゆえ、使用人となって深く反省するがいいっ!」
「「そっ、そんなぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?!?」」
絶叫のハーモニーを響かせる、ブルースとフロッグ。
ヒラクルの手のひら返しは止まらない。
国王の様子をチラッと横目で伺ったあと、高らかに声を響かせる。
「スカイが我が一族を背負って立つ者であることは明白であった!
ワシはそれを見抜いていたからこそ、わざと使用人という厳しい立場に就かせ、修行を積ませていたのだ!
そして今日、スカイは見事にワシの想いに応えてくれた……!
よってスカイは本日より、我が一族の『男爵』とする!」
-------------------爵位一覧
大公
ヒラクル
侯爵
伯爵
子爵
男爵
↑昇格:スカイ
廃爵
↓降格:フロッグ
追放
↓降格:ブルース
-------------------
この時、渦中の人であるスカイは何をしていたかというと……。
肩を落としながら、城下町をさまよい歩いていた。
「ああ……これからどうやって生きていこう……。
一族を追放された以上、住むところも仕事もありつけないだろうし……」
ハイランダーはこの国、いや、世界中に影響力を持つ一族である。
『追放』した者は容赦せず、少しでも日の当たるところを歩こうものなら、ありとあらゆる嫌がらせをしてくるのだ。
そのため、ハイランダーを『追放』されると誰からも雇ってもらえなくなる。
今は追放の噂が広まっていないので迫害されることはないが、それも時間の問題だろう。
絶望にうなだれていると、なぜかスキルウインドウが開いた。
『特権階級となりましたので、「スキル無罪」となりました!』
スカイは首をかしげる。
「……? 俺が、特権階級……? なにかの間違いだろ……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます