第6話

 次の日、国王は今回の『神狩り』を命じたハイランダー一族を王城に呼び出していた。

 謁見場の王座には、国王とセイクルドとその子息たち、なかには姫巫女ラブラインの姿もある。


 レッドカーペットに跪いていたのは、この国のハイランダー一族のおさであるヒラクル。

 その後ろには、今回の『神狩り』に参加したメンバーが揃っていた。


 国王は厳しい口調で問いただす。


「ヒラクルよ、そなたら一族の何者かが、『神狩り』により余の娘ラブラインを連れ出し、手籠めにしようとしたというのは知っておろうな?

 ラブラインはそなたら一族に嫁ぐことがすでに決定しておるが、ものには順序というものがあろう。

 それにラブラインを娶るのであれば、『ハザマノカミ』を倒せるほどの勇者でなくてはならん」


 ヒラクルは、たくわえた長い黒髪と髭が床に付くほどに頭を垂れていたが、王の言葉にゆっくりと顔をあげた。


「恐れながら申し上げます。ラブライン様に狼藉を働いたのは、使用人のスカイであることがわかっております。

 スカイは『廃爵』された後に『追放』され、すでに我が一族の人間ではありません。

 スカイは腹いせに一族の人間であることを騙り、悪事を働いていたのです。

 しかし、元はといえば我が一族の人間。

 我ら一族の手によってスカイを見つけ出し、必ずや始末してごらんにいれましょう。

 そして王はさきほど、『ハザマノカミ』を倒せるほどの勇者を求めておられましたな。

 そのご要望には、今すぐお応えいたしましょう」


 ヒラクルは、城の中庭を一望できる謁見台へと王族たちを案内する。

 そこには、巨大な荷台に載せられた『ハザマノカミ』の死体が運び込まれていた。


「おおっ!? すでにそなたら一族は『ハザマノカミ』を狩っておったのか……!」


「はい。討伐に向かったメンバーは今朝がた凱旋しました。

 いちはやく王にご報告したいと思い、こうしてそのままお持ちした次第であります」


「おお、それはご苦労であった! で、どの者が討伐したのだ!?」


「我が一族の『神狩り』における猛者、ブルースでございます」


 ヒラクルが促すと、後ろに控えていたブルースが一歩前に出る。

 ブルースは顔を覆うほどのマスクをしていた。


「『ハザマノカミ』との戦いで顔を負傷しまして、治療のためマスクをしている無礼をお許しください。

 それに今は声も出なくなったそうじゃな? なあブルースよ?」


 するとブルースは無言で頷き返す。

 王は「おお」と唸った。


「なんと、『ハザマノカミ』を狩ってそれだけの被害なのであれば、まさしく勇者ではないか!

 この者こそが、ラブラインの婿に相応しい! それではさっそく、婚礼の手筈を整えようではないか!」


「ははっ、ありがたき幸せ……!」


 膝を折るヒラクルとブルース。

 しかしその横に、ある人物が並んだ。


「ゲコッ! 『ハザマノカミ』を倒したのはブルースの兄貴じゃねぇ! このフロッグだ!」


「フロッグ!? いきなりなにを申すのだ!?」


「ゲコッ! ヒラクル様! 今までブルースの兄貴にはさんざん手柄を横取りされてきたんだ!

 それでも我慢してたが、ラブライン様とのご婚礼とあれば黙っちゃいられねぇ!

 国王様! 本当はゲコが『ハザマノカミ』を倒したんです!」


 ブルースは猛然と立ち上がり、フロッグを黙らせようとする。


 しかし声を出すわけにはいかなかった。

 声を出してしまえば、今ここにいるラブラインに、狼藉を働いたことがバレてしまうかもしれないからだ。


 ブルースが力に訴えようとしたところ、ヒラクルが一喝する。


「やめんか! 王の御前であるぞ!」


 しかし王は不機嫌な様子もなく言った。


「よいよい、手柄をめぐって争うのはよくあることだ。余も若い頃には兄弟たちと争ったものだ。

 余はそれに打ち勝ったからこそ、今この座に着いておる。

 それでは、『ハザマノカミ』の『スキル痕』の鑑定といこうではないか。

 そうすれば、誰のスキルで討伐されたのかがすぐにわかるであろう」


 スキルというのは同じ名称のものでも、指紋のように微妙に異なっていて、まったく同じものはひとつとしてない。

 そしてスキルによって命を奪われたものは、誰の何のスキルによるものなのかが『スキル痕』として死体に残るとされている。


 それを明らかにするのが『スキル痕』の鑑定である。

 先日、ブルースの手によって崖下に落とされようとしていたスカイが、バレると言っていたのはこのことであった。


 王の言うとおり、鑑定さえすれば誰が『ハザマノカミ』を討伐したのか明瞭となる。

 これ以上ないほどの解決方法だというのに、当人たちは……。


 フロッグは、「ゲコッ!? それはちょっと……!」と言い、ブルースは首が折れんばかりにぶんぶんと頷きまくる。

 さっきまで一触即発だったふたりは、今や一緒になって審議を拒否していた。

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