第3話

 俺は『ハザマノカミ』の死体を前に、呆然としていた。

 いろいろなことが起こりすぎて、頭の中がぐちゃぐちゃになっている。


 正直、これは夢なんじゃないかと思った。

 しかし現実のようだ。


 なぜならば谷底の崖には、俺が上から垂らしたロープが揺れていたから。

 これを登れば兄弟たちの元に戻れるが、一族から追放された今、戻ってなんになる。


 そしてここでじっとしていてもしょうがない。


 今はとにかく、王都へ帰ろう。

 あれこれ考えるのはそれからだ。


 俺は神の死体に背を向けて走り出す。

 その途中、俺の身長くらいある岩が立ち塞がっていたので、登ろうと軽くジャンプしてみたら、


 ……どばひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!


 俺の身体は遥か上空を飛んでいた。

 下を見ると、飛び越えようとしていた岩が米粒のように小さくなっている。


「うっ!? うわああっ!? これがまさか『大天空ジャンプ』っ!?」


 俺は驚きのあまり四肢をばたつかせていると、空中を泳ぐように身体が前に進む。

 そしてまたしてもスキルウインドウが開いた。


『「ジャンプ」のスキルツリーに「空中散歩」が追加されました!』


 おかげで落ち着きを取り戻す。

 落下しながらも足をシャカシャカと動かしてみると、まさに空を散歩しているように前に歩けた。


 さらにあれほどの高さから落ちたというのに、身体は羽根のようにふわりと着地。

 足元を這っていたトカゲすらも気付かずに通り過ぎていく。


「す、すげぇ! これが『ジャンプ』……! いやっほーっ!」


 ありえないほど凄まじいスキルの効果に、俺のテンションは急上昇。

 その勢いのまま次のジャンプを発動。


 しかもジャンプすれば地面を走るよりもずっと速いうえに、地形もひとっ飛びできる。

 『神狩り』のパーティの場合、下山は転移魔法を使うのだが、それに負けないくらいの速さで麓の近くまで着いてしまう。


 あとワンジャンプで下山というところで、俺は麓にあるコテージに気付いた。

 ハイランダー一族は世界のいたるところにコテージを所有していて、今回の『神狩り』においてもあのコテージで登山の準備を整えたんだ。


 今は誰もいないはずだから、ちょっとあそこで休憩しよう。

 そう思って俺はコテージに向かってジャンプする。


 まさかコテージの中で、とんでもない事が行なわれているとも知らず。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 コテージの中では、白いローブに身を包んだひとりの少女と、太っちょの男がいた。

 男は少女に襲いかかっている。


「な、なにをなさるのですか!? 神狩り様っ!?

 ここへはドラゴンを倒すために来たのではないのですか!?」


「ブルルル! ああ、ドラゴンなら今頃、ブルの弟たちがヤッてるところさ!

 だから兄であるブルは、お前をヤッてやろうと思ってなぁ!」


「お、おやめくださいっ!

 か、神狩り様ともあろうお方が、なんということを!」


「ブルルル! ブルはもう太りすぎて飛べなくなっちまったんだ!

 姫巫女であるお前をブルの女にして、弟たちが倒したドラゴンをブルの手柄にすりゃ、ブルはこの国の王だっ!

 爵位もあがって、もう『神狩り』なんてしなくて良くなるんだよっ!」


「だっ、誰か! 誰かぁーーーーーーっ!?!?」


「ブルルルっ! 逃げろ逃げろ! 叫べ叫べ!

 お前はもう逃げられないし、ここにはもう誰もいねぇ!

 たっぷり怖がらせて、たっぷり可愛がってやるぜぇ!

 お前が助かるには、空から神様でも降ってこなきゃ……!」


 ……ドグワッ……シャァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


「ぶるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 次の瞬間、太っちょは天井を突き破って降ってきた何者かに、顔面を思いっきり蹴たぐられていた。

 その衝撃で屋根は爆散、コテージの壁はコントのセットのように四方に倒れる。


 少女は光を失った瞳であたりをキョトキョトと見回しながら、不安そうに尋ねた。


「な、なにが、起こったのですか……?

 まさか本当に、神様が降ってこられたのですか……?」

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