第2話
俺は無限の暗闇を堕ちていく。
いつまで経っても地面に叩きつけられることはなく、永遠とも思える時間が過ぎていった。
悲鳴はすでに途絶え、もはや流れに身を任せるのみ。
頭のなかではこれまで生きてきた記憶が濁流のように流れている。
俺は『神狩り』によって爵位を与えられたハイランダー一族に生まれた。
持って生まれた
『神狩り』にとってジャンプ力は必須とされる。
なぜならば、空から堕ちて魔物になった神はどれも巨大で、弱点を攻撃するために高く飛ぶ必要があるからだ。
生まれながらにして跳躍力に関するスキルを持っていた俺は、一族の神童としてもてはやされた。
子供の頃は最高の環境を与えられ、なに不自由なく生きてきた。
しかし『ジャンプ』のスキルはいつまで経っても『覚醒』することはなかった。
覚醒というのは、スキルが名前だけでなく、実際に効果を発揮することをいう。
そうこうしている間にも、他の兄弟たちは戦闘系のスキルに覚醒していき、『神狩り』としての資質を備えていく。
俺は戦闘系のスキルこそ無かったが、訓練を重ねてなんとか兄弟たちに追いつこうとした。
しかしスキルの有無の差は大きく、俺は歳下の兄弟たちにも追い抜かれるようになる。
そして俺が中等部にあがるころ、一族の
これは、廃嫡と同じで、一族の縁を切られてしまうというものだ。
俺は神童から一転、一族の使用人となってしまった。
しかし俺は『神狩り』の夢が捨てきれず、兄弟たちのパーティについていって雑用係をする。
自分なりに一生懸命がんばった。でも……。
俺は、『追放』された。
そして今、その人生さえも終えようとしている。
俺は目を閉じ、最後の時を待った。
しかし不意に瞼の裏に光を感じ、再び目を開いてみると、そこには……。
『高度1万メートルからの落下に成功、「ジャンプ」のスキルツリーが覚醒しました!』
なんと、スキルの覚醒を表す『スキルウインドウ』が……!
俺は覚悟を決めたつもりだったが、思わず叫んでいた。
「な、なんで今になって!? この高さで覚醒して、いったいどうしろっていうんだよ!?」
覚醒したスキルツリーにはふたつのスキルがあった。
『大天空ジャンプ』と『屈辱ドロップキック』。
『大天空ジャンプ』というのは名前からするに、たぶんジャンプ力を向上させるスキルだろう。
しかし『屈辱ドロップキック』というのは、いったい……?
その答えはすぐに出た。
いままで長いこと宙ぶらりんだった足元の感覚に、なにか固いものが触れたかと思うと、
……ドグワッ……シャァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
俺の両足は、谷底に寝ていたドラゴンの頭を、思いっきり踏みつけていたっ……!
そのドラゴンが『ハザマノカミ』であることはひと目で分かった。
全身が光輝いていて、山のように巨大、頭は家くらいデカかった。
きっと顔も、人間などひと睨みで震えあがってしまうほどの恐ろしいものに違いない。
しかし俺のドロップキックにより見る影もなくひしゃげ、半分くらい地面に埋没していた。
俺は神竜の顔をトランポリンがわりにして跳ね、空中でクルリと回って着地。
身体はなんともない。
1万メートルもの高さから落ちて無傷なんてありえないはずなのだが、今はそれを気にしている場合じゃない。
目の前にいるドラゴンが怒って襲ってこないか心配だったが、ドラゴンはもう息絶えているようだった。
怒りの咆哮どころか断末魔の叫びすらあげられず、ピクリとも動かない。
俺が踏みつけたところを見てみると、靴の足型がついていた。
俺の靴のサイズよりもだいぶ大きいが、そこには『ダメ竜大紀行』と文字が浮かび上がっている。
『屈辱ドロップキック』って……。
もしかして、蹴った相手に屈辱的なワードを残すスキルなのか?
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