第8話 Release
「グオオオオオオオオッ!」
「星川? どうしたんだ……?」
川畑は星川に尋ねた。星川は赤い液体がべったり付着した口元をニタリと上げた。川畑はその赤い液体がすぐに人間の血液だと感づいた。
「何をしたんだ!?」
「グオオオ……」
川畑の問いに星川はうめき声で答えた。答えにはなっていなかった。
星川はどんどん川畑に詰め寄ってくる。川畑は吐き気を催した。今の星川は以前彼女と一緒に観たゾンビ映画のゾンビそっくりだった。気持ち悪かったゾンビが目の前にいる。川畑は嘔吐した。朝食が主成分の吐瀉物が衣服を汚した。やってしまった。いや今はそんな事考えてる場合じゃない。目の前にいる星川を何とかしなければ。
「星川! 星川!」
川畑は酸っぱい口を必死に動かして呼び掛けた。だが星川には届かなかった。
そして星川は、川畑の首元に嚙みついた。
その時、何本もの釘を打ち付けられたような痛烈な激痛が川畑を襲った。星川はさらに深く、川畑の首に歯を食い込ませた。川畑は激痛で頭が回らない中、何か武器はないのかと探した。机の上を右手の感触だけで探っていると固い物に手が当たった。恋愛映画のDVDのパッケージだった。川畑は考える暇もなくそれを取り、星川の左目に角を押し当てた。星川は左目が濁り出血し一瞬怯んだ。その隙に左拳で星川の顎を打ち抜いた。星川は動かなくなった。
「これは……ゾンビだ……」
川畑は激痛が続く首元を抑えながら呟いた。映画好きの彼女がいなければきっと助からなかった。川畑は心の中で彼女に感謝した。だがなぜ星川がこうなったのかはわからなかった。それよりも本当にゾンビだとするなら自分もやがてこのようになってしまう。だったらせめて今できることをやらなければと川畑は思った。そして川畑は立ち上がり、飼育ケースの前に立った。
「どうしたのですか? それよりその首の傷……!」
シスコが川畑の様子に気づき、心配そうに尋ねた。川畑はそれには答えず、ディエゴ、ロス、ちょうろうもそれぞれ呼んだ。ちょうろうはすっかり復活していた。
「何があったんだ?」
ディエゴが川畑の顔を見て尋ねる。ロスもちょうろうも川畑の前に集まった。それを確認してから川畑は汚れた口を汚れた手で拭った後、ゆっくりと開いた。
「君たちを今から外に逃がす」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます