第28話 口喧嘩で勝てると思った?

これは失礼、とわざとらしい動きで被っていた帽子をとり、大仰にお辞儀をした老人。

ぱちりと目が合うと、殊更わざとらしく男が笑顔を作った。


「いやはや、こちらの手のものが大変失礼いたしました。なにぶん、巨大な狼が荷台を狙ってきたと息巻いていたものですから。」


「いえ、こちらこそ──」


ところで、と、私が言葉を告げる最中に口を挟む男。

親切に接しているように見えるが、お前の言葉を聞く気はないという態度がひしひしと伝わってくる。


「巨大な狼がいた、との話ですが……。」


「……えぇ、いました。追い払いましたけど。」


「なんと!」


「はぁ? お前らが?」


私の言葉を聞いた老人は両手を叩いて嬉しそうに、ダダンは訝しげに私を睨みつけながらそう言った。


「ハッ、たまたま上手くいっただけだろ。追い払ったんじゃなくて見逃されたんじゃねぇのかぁ?」


ぎくっ。

無礼なくせに鋭い奴だ。


「フン、自分じゃその程度しかできねぇって分かってるからそういうことしか言えねーんだろ?」


「んだとゴラァ!」


「事実だからって逆ギレしてんじゃねーよ!」


「やめなさいって言ってんでしょ、治!」


前のめりになる治の背中──正確には背中の服を引っ張る。

ピンと張られた洋服に一瞬動きが止まったが、そこから先はいくら私が引っ張ろうともぴくりとも動かない。

やっぱり、力が強すぎる気がする。

《戦うちから》によって怪力バカになってしまったのか……と憐れみの目を向けていると、自分にその目を向けられたと勘違いしたのか、ダダンが真っ赤になって黙り込む。

怒りって、行きすぎると無言になってしまうよね。わかるわかる。

お前の無知蒙昧さは理解できないけど!


「つーかお前、さっきからお母さんかよ……。」


──イラッ⭐︎


「誰のせいだと思ってんのよ私だってなりたくてなってるわけないでしょうが大体アンタが後先考えずに突っ走ったことの後始末をしてやってるってのにそもそも自分で後始末しなさいよそれができるなら私がこんなことしてないんですけど後始末も出来ないのに考えなしに喧嘩勝ってどーすんのよそれに」


「……すまん、悪かった、わかった、俺が悪かったから。」


つらつらと口から怨嗟が飛び出すと、治がすぐに両手をあげて降参のポーズをしたまま謝ってくる。

全く、勘弁してほしいものだ。

誰が好き好んでお母さんになるかっての!

私はまだ17歳なんですけど!?


「女ってこえぇ……。」


「そればっかりは同意しとくぜ、にーちゃん……。」


何故か頷きあう治とダダン。

アンタたちが喧嘩しなければ、こんなことにもならなかったと思うんですけど?

じろりと2人を見やると、2人は揃って肩を振るわせた。

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