第27話 子供たち

「私たち、見捨てられた。恩人ヴァーチェ、ありがとうございます。」


日本語を習ってまだ短い外国人のような、どこか不自然なカタコトでそう告げた少女。

さらりと肩からこぼれ落ちる金髪が陽光を弾いて煌めく。その金髪からぴょこんと飛び出た、大きく突き出たとんがり耳。

まさしく、エルフ。

漫画やアニメでお馴染みの、エルフまんまの見た目の少女だった。


「ヴァーチェ……? ま、とにかく無事で良かったな。」


終始戸惑った様子の治だったが、状況が落ち着いてきたおかげで冷静さを取り戻したようで口を開いた。


「見捨てられた、か……。そうだよね、馬車なのに馬も御者もいないしね……。」


おそらく、さっきの大きな狼に襲われた際に御者だけが馬に乗って逃げたんだろう。

リスクヘッジ──戦う術がないのだったらそれは当たり前の事だ。

誰だって自分が可愛い。

私だって、今の姿じゃなければ助けられなかっただろう。

それは治だって同じで、治もそれをわかっているんだろう。どこか苦々しい面持ちだった。


「だからって、子供だけ置いていくか? 普通。」


「助けを呼びに行った、って考えたいけどね……。この子は見捨てられたって言ってたし、それも望み薄かな。」


「だな……。怪我がなくて良かったけど、ど〜すっか……。」


にきたばっかの私たちじゃ何も出来ないしね……。とはいえ、このまま放り出すのもどうかと思うし、どうしたもんかな。」


ボソボソと治と話し合っていると、その空気を察したのか、少女がもう一度頭を下げる。


恩人ヴァーチェ、困ることない。私たち──」


少女が何かを言いかけた時、私の耳が地を蹴る音を拾う。

これは──おそらく、馬が駆ける時の響きだ。


「馬がこっちにくる。多分、4・5頭くらい、かな。」


ピクピクと耳が動いているのがわかる。意識的に音のする方へ耳が動き、音を拾おうとしている。

重なる蹄の音がダダダダッと大地を地鳴らしている。


「どう、どう!」


「オイ、デケェ魔物なんかいねーじゃねぇか。どーなってんだ?」


「そんなはずは……」


ギャアギャアと喚きながらこちらに向かってきた馬に乗った男たちと、目があう。

お互いにお互いを見たまま、シン──と静けさがお互いの間に横たわる。


「誰だ? アンタら。」


代表格なのだろうか、あからさまに主張する眼帯をつけた男がそう問うてくる。

その言葉にムッとしたのか、治が睨め付けながら男に答えた。


「お前らこそ誰だよ、あ?」


「やめなバカ。」


「控えろダダン。」


私の声と、年老いた男の声が重なる。

治とダダンと呼ばれた男が、声のする方──両者の後ろを振り返る。

私と年老いた男はお互いに顔を見合わせた。

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