二章♢商人と獣

第24話 喧騒の先に

走り去っていく治の背中を追いかけていく。

というか私、かなり身体能力が上がっている。周囲の景色が早送りのように後ろに流れていくなんて、自転車並みのスピードが出ているんじゃないだろうか?

ということは、治は原付くらいスピードが出てるんじゃないだろうか。

結構本気で走ってるにも関わらず、追いつけないどころかどんどん引き離されていっている気がする。


喧騒はどんどんと近くなってきている。

意識を傾けなくても聞こえてきているのだ。怒号と悲鳴が。


「〜〜!!!」


そうして走っていくと、治の背の先に黒い点が見えてきた。

あれは……車?

いや、馬車だ。

元の世界でも現物は見たことがないけれど、漫画や小説の挿絵、歴史の教科書なんかで見たことがある。

大きな白い幌の荷台を引いた馬車。


「ば、馬車!?」


と治が驚いて足を止める。

結木が言っていた、この世界はまさに発展途上なのだろう。

中世ヨーロッパくらいの発展度なのか。確かに元の世界より発展度は劣る──じゃなくて!!


「治、ストップ! そこで、待って!」


ようやく止まったバーサーカーに追いつくチャンスだ。

呆然とした治に追いつくと、その瞬間に小さな悲鳴が響いた。

そう、それは、子供の悲鳴だった。


「子ども……」


私の呟きを聞いた治が我にかえり、一瞬で険しい顔のまま馬車に向かって突っ込んでいく。


「ちょっ──! だから、待ちなさいってば!!」


「ありゃどう見ても緊急事態だろ! 助ける!」


「〜〜もうっ!! 現状確認くらいしろってのよ!!」


パッと周囲を見渡す。

馬車には馬が付いておらず、明らかに何かトラブルがあって荷台を捨てたようだ。問題はその荷台から子供の悲鳴が聞こえること。

そして、トラブルは明白。捨てられた荷台の周りをうろつく巨大な狼がいること。


「って、狼!? なんて大きさ……!」


まさかアレもスライム的な奴なのか。

も、モンスター的な!

そんなハチャメチャワイルドな異世界転生なの!?

聞いてない、聞いてない!

魔法があるのは知ってたけど、そんな剣と魔法の──みたいな、そんな異世界だなんて!

これのどこが地球そっくりなのよ!!


「って、そんなこと言ってる場合じゃない……! 治!」


「わーってる! あのデカいのだろ!」


「分かってるって、なんとか出来んの!?」


「…………っ」


「出来もしないのに突っ込んでくんじゃないバカ!」


バカ!?とキレかかる治を無視。

バカもバカ、超ド級のバカでしょうが!

どーすんのよ、コレ!

ああもう、考えろ考えろ考えろ。余計な事は思考から削ぎ落とせ。頭を回せ、私に出来るだけのスピードで、考えろ。今までの小説、漫画、知識──全て使って考えろ、探せ!

魔法は使えない、使い方を知らない。武器もない。身体能力と機転だけで追い払え、撃退しろ!

あのキャラはどうしてた。あの人は、あの子は──こんな時、どうしていた!

この場面での正解を、探し出せ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る