第23話 喧騒

話をしながらも、私が目覚めた森を左手に、思っていたより歩きやすい街道を道なりに進む。

小石や雑草こそあれ、今のところ泥濘ぬかるみやら大きな遮蔽物などはなく、障害なく進める。

──つまり、少しつまらない時間になってしまった。

先ゆく道の先には街は見えないし、誰かが通りかかるわけでもなく。森と景色が変わっただけで、ハプニングが起こるわけでもなく、ただひたすらに何もない。


「いやほんと、どのくらいで着くんだろ……。これが何日も──は流石にちょっとなぁ」


つまらないからだけが理由ではない。実際、食料や水、火など多くの問題がある。森であればなんとかなったかもしれないが、このまま道沿いに森が進むというのはいささか楽観的すぎるだろう。

結木曰く、ここは『死んだ世界』らしいし。


「……なあ、俺の気のせいかもしれねぇけど。なんか、聞こえねえ?」


「ん? 何か、って──」


そこまで言いかけて、耳に意識を集中してみる。

すると、どこか遠くの方で叫び声のような、悲鳴のような声が響いていた。


「き、聞こえる。なんかヤバそうな声が!」


「だよなぁ……ってコレ、マジでヤベぇんじゃ……!」


そう言うや否や、治は喧騒の方──目指す道の先へ走り出した。


「ちょっ……!」


ちょっと待って、という言葉を言う暇もなく駆け出していく治の背中を見て、小さくため息を吐く。

これだ。こういう奴なのだ。茶藤治という男は。

短気で、喧嘩っ早く、煽りに弱くて。

正義感が強く、自分を顧みない優しさがある。

今はと違って人のことを気にかけているほど余裕があるわけじゃないのに。


「あ〜もう、仕方ないなぁ!」


その声が少しわくわくしているような弾んだ声だったのは、きっと気のせいだ!

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