第19話 夜が来て

「ま、については俺らが考えててもしゃーねぇか」


ふっ、とため息をついた治はそう諦めたように笑った。

気まずい空気を気にしないというように、なっ、と私に同意を求めてくる。


「……うん、そうだね。せめて、奏と会えてから、かなぁ」


あの結木や神様が教えてくれる訳もなし、割り切ろうと言うと、治は苦笑した。確かに、アイツらがご親切に教えてはくれねぇわな、と。

ぱちん、と薪がはぜる。

静かな湖で、遠くから鳥の声が響いている。

焚き火と星灯りしかない湖で、ぼんやりと橙色の火を見つめていると──ふぁ、少し眠くなってきた。


「でっけぇ欠伸」


くっくっと笑いながらそう言われて、治は眠くないのかと問えば、まぁまぁ?という返事。

まぁまぁって。

こんな怒涛の1日が終わろうとしていて、疲れていないんだろうか?


「……疲れてはいるけどな、寝なくてもまぁ動けるってだけだ。」


顔に出てたかな?

それにしても仮にも乙女の欠伸を笑うとは。失礼な奴である。


「明日はどうするんだ?」


「どう、って?」


唐突な、漠然とした質問。明日からどう動くのか……治は考えていなかったのだろう。

方向性としては奏を探すで一致しているけれど、どうやって奏を探すのかということも聞きたいのだろう。


「どーやって涼素を探すんだ? なんか当てでもあるのかよ」


やっぱり。


「当てなんてある訳ないじゃん! でも、やれることはあるよ」


「やれることォ?」


しかめっつらでこちらを見やった治に、ふっと笑いかけて指を指した。

指し示す先は、昼間治がやってきた方角だ。


「治が人と会ったっていう街道に向かう。道すがら歩いてれば誰かに会えるか街に着くかするでしょ」


そういうと、成る程なと頷かれる。

こういう転生モノで王道の展開でもあるしね!


「なら、明日に備えて寝とけ。俺は周囲の警戒──見張り、しとくからよ」


ムッ。

治にしては考えている。さっき、全部を私にぶん投げた男とは思えないなぁ〜、なんて。


「ん、分かった! 疲れたら交代するから起こしてね?」


「お〜……」


彼の優しさに感謝。流石に異世界に来て見張りなしで熟睡出来るほど、私は図太くはない。さて、寝るとはいえ流石に地べたに横にはなりたくないなぁ──


「俺、一応男なんだけどなぁ……」


そんな治の、呆れたような呟きを聞きつつ背を向けた。

聞こえなかったフリをして、近くの木に背中──というか、右半身を押し付けるようにして目を閉じる。

ぴろぴろと耳が動いているのを感じる。尻尾がゆらりと揺れているのも分かる。それから、顔がかなり熱くなったのも。

ただ、恥ずかしかっただけだけど。急に女の子扱いされたけど、全然、照れてなんかいない。

火に当てられて、火照っていただけだ。

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