第17話 見たくなかった!!
拾い集めた枯れ木や、木々から毟り取った枝や葉を手に湖に戻ってみると、上半身が裸のままの治が四つ這いで湖に頭を突っ込んで悶えていた。
──衝撃的な絵である。
湖に向かって何か叫んでいるのだろうか、ゴボゴボと気泡が上がっている。
「──ブハァッ」
気配を感じたのか、私が背後に回る前に湖から顔を上げる。
フウー、と大きなため息をついて頭を大きく振る。周囲に水滴が飛び散り、ちょっとした水たまりが出来た。近づいていたらびしょ濡れだっただろう。近寄る前でよかった!
「なぁ、これ、やっぱ今からでも変えられねえか……?」
これ、と言いつつ、水面に写る自分を指さす。
「いやいや、私らが選んでこの姿になったならともかく……勝手に決められてこうなってるんだからさ……」
「……だよなぁ」
首を振る私の言葉に深く溜息をついた治は、未だぽたぽたと雫の垂れる髪を乱暴に掻きむしった。
まぁ、気持ち的には分からなくもない。私も自分自身が猫耳女になっているだなんて、正直誰得でもないしなんなら狼とかが良かった。
私はどちらかといえば犬派なので。
「そもそもさ、ろくに説明もしてくれない神様がその希望を聞いてくれると思う?」
ダメ押しでそう言うと、治はまた頭を抱えてしまった。
「クッソ、こんな、こんな
割と同意、と枝葉を抱えたまま頷く。
けれどこの世界でこれから生きていくなら、
「なんで俺、”鬼”になってんだよ……? つーかこれ、鬼だよな……? なんで鬼なんだ? てっきりサイとか恐竜的な何かかと……」
「……うん、まぁ、言いにくいことだけど、どうみても鬼です。」
「俺もせめてもっと分かりやすいのがよかった……茉莉みたいに──いや、猫はアレだが──こう、虎とかさ……」
「──いいじゃん! 強そうだよ、鬼!」
「分かってはいたけどよ……デコからなんか生えてんのは……けどまさか鬼とはな……」
真剣に落ち込んでいく治に、これ以上何を言っていいものか……。合掌。
そんなことより、拾ってきた木々で火を起こすことの方が優先だと割り切って、地面に櫓のように木々を組み立てていく。
ブツブツと呟いていた治も、私が作業に集中し出したことに気づいてのそのそと服を着た。
「悪ぃ、全部押し付けてたな。なんかすることあるか?」
なんやかんや言いつつも、こうしてすっぱり切り替えられるのは治の美点だと思う。結木に煽られて転生を決めるくらい単純だけど。
「じゃ、一番の重労働──もとい、重要な仕事を。はい」
と、枯れ木と裂けた木から折り取ってきた板を投げて渡す。
投げられたそれらを受け止めて、治はぐっと眉根に皺を寄せた。
「めちゃくちゃ大変なヤツじゃねぇか……」
なんとか奮闘した治がようやく火を起こすことができたのは、なんと日が沈んだ後のことだった。
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