第16話 お互いに
ため息で水鏡が揺れ、湖に波紋を生んだ。
やはり、私には猫耳が生えていた。
いやまぁ、そうだとは思っていたけれど、現実にそうだと突きつけられるとなんとも言えない気分である。
いわゆる烏の濡れ羽色、藍色とも黒とも呼べるような黒髪。それと同じ毛色の耳と尻尾。顔立ちは前と同じだが、前より少し痩せている。引き締まっている、というべきだろうか?
それから、髪は襟足を残してバッサリと肩口で切られていて、ウルフカットのような髪型になっていた。前もウルフカットではあったが、それよりも明らかに長く伸びている。
喜ばしいことに、体毛は人間と同じで濃くなく、ヒゲも生えていない。ご都合の良い獣人化だった。
「何してんだ?」
「自己分析。治も自分の顔、見てみたら?」
くるくると湖に全身を写していた私を不思議に思ったのか、声をかけてきた治に対してそう答えた。
「あ〜……ま、しといたほうがいいか。それに、誰かさんが投げてきたスライムの汚れも落としたいしな」
長々と引きずる、嫌味ったらしいヤツである。謝ったのに。
「あ、水浴びするなら遠くでやってね! 見たくないし!」
これ以上余計な火種は生まないに越したことはない。だが生活のための火種は必要である。
背中越しに失礼なヤツ、とぼやく治に、火起こしに使うための木を集めてくる、と言い残して、湖に背を向けた。
「さて、乾いた頑丈な木と、あと小枝と、葉っぱと……何回か往復しなきゃかな〜」
そんな独り言を言いつつ、湖を背に森の中へ足を踏み入れる。
来た道と違う方へ足を伸ばしてみたものの、時期的なものもあるのか枯れ葉も小枝もあまり見当たらない。きょろきょろと足元を見ていると、後ろから
「──ッッッ〜〜!!!」
と何か叫ぶ声が聞こえた。
その大声に驚いたのか、湖方面から何匹かの鳥が羽ばたいて去っていく。
「貴重な食料が……」
そう呟いてしまったものの、もっぱらの目標は湖にあるであろう魚ではある。それに、この体で狩りが出来そうな事は分かるが、そもそも鳥を捌けるだろうか?
不安なところである。
などと考えていると、鳥が飛んでいった衝撃か、いくつかの葉っぱや枝が落ちてきていた事に気付く。
ただ、火起こしに足りる量ではない為、結果としては木に登って調達するしかないのだけれど。
「生木は燃えにくいんだよね、確か」
まぁしかし、贅沢など言ってはいられないのである。
背中遠くで未だに喚いている治が多少おとなしくなるまでは、と枝葉の落ちてきた木に狙いを定めて大きくジャンプするのであった。
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