第15話 湖に着いたら
「お前、本っ当に猫になったんだなぁ……」
進路確認をしに木に登っていた私が降りてきたところで、治がそうため息をついた。何を今更?と首をかしげると、意図を汲み取ったのか治はまた更にため息をついた。
「運動音痴がこんなになってりゃため息も出る」
「あー、ま、確かに……私は自分自身のことだから、感動もしたし困惑もしたけど、人からしたら余計にか」
「猫の耳と尻尾が生えただけの見掛け倒しかとも思ってたんだけどな〜……お前が神様からもらったのって、もしかして運動神経か?」
茶化し気味にそういう治の言葉を聞いて、思わず動きが鈍った。
そうか、そういう考え方もできるのか。
──これが神様の加護とやらなのか、と。
けれど、私が望んだのは「運動神経」ではない。望んだものが運動神経として現れた?
ありえない話ではないけれど、それくらいで補える願いではなかったはず。なら──
「おい、おいコラ茉莉!」
「……っ! ……?」
考え込んでしまっていて、治のことをすっかり無視していたようだ。
目の前で怒鳴られているのに全く気づけなかった。
「ま、何望んだかなんて知らねぇし聞かねーけどな、それも含めて現状確認しねーとだろ?」
「う、うん……ごめん」
「もう空も赤くなってきたし、急いで湖につく方がいいだろ。少し急ぐぞ」
言われてみれば、太陽がかなり傾いてきている。
あっちと違い、遮るものが少ないからこそよくわかる。更に言えば、私も治も何も持っていない。つまり無一文だ。
早めに水と食料を確保しなければ、森から出たところで野垂れ死んでしまう。
「そういうところ、私より全然冷静だよねぇ……」
ザクザクと枯れ葉を踏み分けながら先を進む治の背に向かってそう呟いた。
さっさと進んでいく治に慌ててついていくと、割とすぐに開けた場所に出た。木々はその湖を囲うように生えていて、あたり一帯は太陽光を反射してキラキラと輝いていた。
「うわ〜……めっちゃ綺麗……」
「で、どうする?」
「雰囲気ぶち壊しだよ! っていうか考えてなかったんだ!?」
あれだけさくさく進んでいくから、それこそ水と食料とって色々考えているもんだと思ってたのに!
そんな私に驚いた様子でこちらを見る治。
「いや、なんも。つかそういうのはお前が考えてんだろーと思ってた」
「わ〜お、成る程……」
丸投げかよ!という言葉は飲み込んで、湖を覗き込む。
水は透き通っていて、鳥が周囲にいることを考えれば、加熱すれば問題なく飲めそうだと判断。
原始的な錐揉み式の火起こしに使えそうな木々も周囲には豊富にあるし、まぁなんとかなるかな?
今まで読んできた全ての漫画と小説に敬礼。
「……ほんと、顔はあんま変わってないんだね」
湖の水鏡に映る自分の姿に、ふう、とため息をついた。
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