第10話 まさに
あり得ないことだとは理解していても、こういう時はどうしても好奇心やワクワクの方が勝ってしまう。
特に、元厨二病やオタクにとって、こんな絶好の機会はなかなか訪れるものではないだろう。
──転生したら猫耳美少女になっていて、更に猫そのもののような身体能力を手に入れている、だなんて!
「いやまぁほら、現状把握のためだし……」
と、誰に言い訳するでもなくひとりごちたが、自分自身の冷静な面への言い訳かもしれない。
いくら元とはいえ、いまだに漫画も小説も大好きなのだ。こんなワクワク、逃す手はない。
確か漫画では、こう全身のバネを使って──
「ひぃっ……!?」
全身を使って跳ねたとき、景色が消えた。
消えたというより、木々が鬱蒼としていたはずの視界が急に
周囲に木はあるものの、先ほどのように密集している感じではなく空の色がちゃんと分かるくらいにはまだらになっている。
「って、それどこじゃ──!」
一瞬の恐怖ののち、体を浮遊感が襲う。
自然の摂理のままに、落下している!
「ぎゃあああ!!」
猫耳美少女とは程遠い悲鳴が木々を揺らす。視界の遠くで鳥が飛び立つ様が見えた。
慌てて目の前に手を伸ばす。
右の手の指先がチッと音を立てて木の皮に引っかかったあと、すぐに別の枝に手が届く。指3本が枝に引っかかった、と理解できたところで足は重力のままにどんどん落ちていく。そのまま指先に力を入れると、落下が止まった。
とはいえ指が限界だ。左手で枝を掴み体を少し引き上げ、右手も枝を掴み直し、新体操の鉄棒の要領で体を揺らして木の上にストっと足から着地した。
「……は?」
再確認しよう。
そもそも私は自他共に認める運動音痴のはずだ。
その私が、何メートルあるかもわからない木を飛び越えるような垂直ジャンプ?指先だけで落下の衝撃を耐え、あまつさえ木の枝の上に足からの着地?
あり得ない。
「あはは……こんなん、笑うしかないわ……」
現状把握、というか自己認識は大成功のようだ。少なくとも、今の私が今までの私ではないことだけは確かだと認識できたのだから。
まさに、猫そのものの身体能力のようだ。
両手をぐっぱと開閉して、ため息をついた。
そのまま上を見上げて、少しずつ木を登って森の周囲を見ようと思っていた時、不意に背中?がこそばゆいことに気づいた。
いや、背中というより、これは──
「まぁ、耳があるなら尻尾もある、よねぇ……っ!?」
あまり感覚が鋭敏でなかった尻尾ではあるが、無意識に尻尾を使ってバランスを取っていたりしたのだろうか?と尻尾を目の前に持ってくる──と、尻尾の上に拳サイズの気味の悪い粘性の物体がへばりついていた!
「ひっ、ぎゃああ! なに! なにこれえええ!」
生暖かいような冷たいような、ネバネバした体液と思われる液体が尻尾の毛の間に入り込んできてとても気持ち悪い!
例えるなら、頭によだれをかけられているような……背中に生暖かいスライムをこうねっとりと伸ばしながら塗られているような!
とにかく、なんともいえない気持ち悪さ!
全身の毛がぞわぞわと逆立つような気持ち悪さが全身を襲い、震わせる。
「キモいキモいキモい!!」
振り払おうと尻尾を掴んで、思い切り振った。
ねちゃあ、と嫌な音をさせながらスライムもどきがいい勢いで地面に向かって飛んでいく。
──ばちゅんっ
スライムもどきが地面にぶつかる音と同時に、私の視界は文字通りひっくり返った。
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