第9話 新しい姿

目が覚めると、猫耳が生えていました。


「……って、それなんてラノベ!?」


思わず有名なツッコミが出てしまうレベルで、ありえない事態になっていた。

いや、正確には、目が覚めると猫耳が生えていたというより、気がついたら森の中に居た、だった。

ビルくらいの高さまである木々が周囲を埋め尽くしている。見渡す限りの森には、誰かがいる気配も、生活している様子もなかった。

私は、たった一人で、森の中で目を覚ましたことに、恐怖した。肌寒いわけでもないのに、指先が少し震える。


「ツッコミとかしてる場合じゃない……誰か探すか、森の外に出るかしないと」


震えを抑えるように両手を握りしめ、ぐるりと周囲を見渡した。

というか、そもそもここはどこなのだろう?

ゲーム画面のような神様のせいで、ここが異世界なのかゲーム世界なのか、私では判断が難しい。


「うぅ……、奏がいれば……」


奏はいつだって冷静だから、テンパった私をすぐに冷静にしてくれるのに!

とまあ、無い物ねだりをしていても仕方ない。諦めて、とりあえずの目標を立てようと首を振った。

いつの間にか震えの治った手でそこいらに落ちていた木の枝を拾いあげ、地面にガリガリと文字を刻んだ。


──現状把握・確認。まずすべきこと。次点で優先すべきこと。余裕があればやりたいこと。


「……。うん、よし。まずは現状把握、そうだよね」


小声で文字にしたことを繰り返して、自身の現状把握を始める。こういう時、今まで読んだ漫画や小説が役に立つとは……。

まず、違和感を感じるのは、間違いなく耳だ。目の横にあるべきだった耳が、頭頂部にある。

漫画とかで見る猫耳少女たちはこんな感覚だったんだなぁ、と余計なことを考え始めてしまったので、慌てて頭を振って、


「現状把握、最優先課題!」


と声を出した。

猫耳、といったものの、周囲に自分を見ることができる水たまりやら鏡やらがあるわけではないので自己認識でしかないのだけど、なんとなく、猫耳じゃないかと感じる。

触ってみたところ、ふわふわしていて、先が尖っている。薄くてふにふに。まさに猫の耳の手触りである。

そしてめちゃくちゃくすぐったい。自分で触っているからこそ耐えられるけれど、人に触られたくない部位だな。

耳以外で気になったことは、体が軽いこと。自他共に認める運動音痴だからこそよく分かる。


「う〜ん、客観視できないから、実感できるような……」


体の軽さがそのまま身体能力の上昇を意味しているのかを確認したいのだけど、周囲に人がいないこの状況じゃあ自分の運動音痴が治ったのかどうかを確かめることができない。

周囲を見回しているときに、ふと某忍者漫画や、某科学漫画の内容を思い出した。


──いや、まさか〜。ないない、流石にそれは、ねえ?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る