第8話 異世界(?)へ

「えっ……? え?」


目の前に広がる見慣れた光景に、思わず素っ頓狂な声が出そうだった。いや、自分では声を出したつもりなのだけれど、その声が聞こえる事はなかった。

ザ・ロールプレイングゲームのロード画面ですと言わんばかりの、「お待ちください」という青い文字が真っ白い空中で浮いている。

体の感覚はまだないものの、文字が認識できることに気づいたのであたりを見回してみるけれど、やはり周囲は真っ白なままだ。


「ん?」


ふわり、と「お待ちください」の文字が消え、「ようこそ」という文字が現れる。

は、果たしてゲームだったのか?

私が見ていたのは、ゲームのPVか何かだったの?

例えば、クラス全体を巻き込んだ、ドッキリのような──リアリティが求められる、みたいな──……

そんな、現実逃避のような思考が、頭を巡っている。


「ようこそ、あたらしきいのち」


文字が、形を変えていく。


「なんじが、のぞむものは?」


私が、望むモノ?


「ちから、ちえ、ちい。のぞむものは、なんぞや」


私が、望むのは──


「元の世界に、帰りたい。」


「なんじが、のぞむものは?」


この文字は、多分だけど、神様なんだと思った。

元の世界に戻る事は出来ないと突きつけた上で、転生ボーナスを選べと、そう言っているのだと。


「転生ボーナスなんてクソ食らえ──、なんて、言っていられないよね。」


「あたらしきいのち、なんじが、のぞむものは?」


真っ白な世界で浮遊する青い文字。

クソったれな神様が、どこまで私の望みを叶えてくれるのかなんて分からないけど……


「私が、望むものは──」


私が望みを口にすると、青い文字は満足そうに揺らいだ。


「なんじののぞみ、ききとどけよう」


「あたらしきいのちよ、わがなはアルデヒルデ。またいずれあうこととなろう」


はいはい、どうせ死んだらまた会うって言いたいんでしょ。

鼻を鳴らすと、青い文字が笑ったような、そんな気がした。


「なんじ、いずみまり。なんじが、あたらしきかぜとならんことを」


「けんとうを、きたいする。なんじに、わがかごを」


「ねがわくば、さちおおからん、よいたびじであらんことを」


最低な神様のわりには、わりかし良い言葉だったと思う。

そんな激励……いや叱咤の文字を最後に、真っ白な空間の光がまた一段と煌めいて──。

私の意識は、今度こそ途絶えた。

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