第6話 希望

燈利が黒板に消えて少し経ったあと、何人かが『消える』ことを選択した。

どうせ死んでいるのなら、このまま、苦しまずに。

そう言って、泡のように溶けて消えていった。

最初に結木に声をかけて消えていった人のように、炭酸が抜けるように、すっと静かに消えてしまった。

──そういえば、最初に消えた人は、なんて名前だったっけ?

どんな声で、どんな容姿だったっけ……?


「あたしは、転生する。」


「え、あっ、さ、桜子ちゃんが、そうするなら、わ、わたしも……」


赤峰と、赤峰と常に行動している、先ほどまで泣いていた少女──松枝桃まつえももが転生を決めると、それにつられるように数名が転生を決めて、あの黒板であって黒板でなくなった光に吸い込まれていった。

それを見届けていた私と奏は、もう教室の中にわずかにしか人が残っていないことに気づいた。

担任の足に動揺し、嘔吐した眼鏡の委員長もすでに姿はなく、あの子はどっちにしたんだっけ?なんてどうでもいいことを考えてしまった。


「んで、さっきからヒソヒソしてた、きみらはどうするの?」


結木と、目があった。

嫌な笑顔のままの結木の目には生気が感じられず、淀んでいるように見えた。

こんなにも楽しそうにはしゃぐ結木のその目に、違和感を覚える。

なんで、結木は──。

でも、今は結木について、考えている暇はなかった。


「私は、転生するよ」


「右に同じ。茉莉と私は、転生を選ぶ」


「え! じゃあ、俺も!」


私と奏の返事に対して、教室の隅にまだ残っていた面々の一人が声をあげた。


「こ、公平こうへい? あんたまだ居たの!?」


見知った男だったせいで、声がひっくりかえってしまった。

黒崎公平くろさきこうへい。私の幼稚園時代からの幼馴染だ。


「いやひどくねぇ!? 俺ずっと居たんだけど! もしかして……気づいてなかった?」


驚いたのと悲しいのとでダブルで俺そろそろショック死するんじゃねーの……と肩を落とす公平。

同じクラスで幼馴染という腐れ縁からそれなりに接点のある男だが、怒涛の展開を迎える自分自身にいっぱいいっぱいですっかりと存在を忘れていた。冷静だ何だと考えていた自分自身がいかに冷静でなかったのか、私はまた改めて実感したのだった。


「いや、それどころじゃなかった、っていうか……」


「はーい! オレもオレも! オレも転生する!」


公平につられたように、公平と同じく教室の隅に残っていた面々が動き出した。

公平とつるんでいる連中もいれば、特にそうでもないやつも見受けられる。いの一番に公平──というか私と奏──に乗っかったのは、へらへらと笑う紀伊麓太きいろくただった。

確か小学生後半?か中学の頭かにこの地域に引っ越してきた陽キャだ。いつでもニコニコへらへらしていて、おちゃらけているヤツ。


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