第5話 決意

「ま、別の種族だからってどの神様を信仰するかは自由だし〜、混血もいるし〜、種族同士の対立もないわけじゃないけど仲良いところもあるし〜、別に知らなくても大丈夫だよね〜!」


指折り数えながら確認する結木だが、そんな大事な話がいくつもあるなんて……。そういうことは転生前に教えて欲しいものだ。新城は知らないまま転生してしまったようだけれど……

と言うか、本当に転生なのだろうか?

集団で幻覚を見ているとか、明晰夢だとか──

いや、これは、現実か。

担任の足だったものが生々しく転がっている夢だなんて。実際に見たことがない光景を、想像だけで作れるものだろうか。

現実逃避したくなるような悲惨な光景だけれど、これは、遠い世界の出来事ではなくて、今、私の目の前で起こっている現実なのだ。

そう納得した時、すっと目の前の光景が遠くの小さな世界ではなくなった。さっきの、そうだね、という言葉を飲み込んで、隣の奏に向かって言った。


「奏、私は今ようやく、になったみたいなんだけど。どうする、ってことは、もう、決めてるの?」


「……うん。私も茉莉も、異世界転生にはある程度知識があるじゃない? だから、このまま死ぬ──消える?よりはなんとかなると思って。」


コレが異世界転生なのかはさておいてね──と奏はため息をついた。


「でも、それには茉莉の意志の確認と、現状の整理も必要じゃない。だから聞いたのよ。『茉莉はどうする?』って」


……さすが、奏。私も割と冷静だと思っていたけど、その比じゃなかった。そもそも、冷静を気取っていただけで、さっきようやくまともに考えられるようになったばかりなんだけれど。


「このまま死ぬ、なんて、癪に触るよね。」


「ふふ、同意。何もかも、結木の思い通りって感じがするのも、嫌だけれど……」


「アタシ、転生する」


ひそひそと結木に聞こえないように相談をしていた私たちの正面で、立ち上がった少女がそう言った。

ざわめく教室の中で、よく通る声でそう宣言したのは──


あんず……、あんた、正気!?」


赤峰とよく行動を共にしていた、つまり同じグループにいた少女。

燈利杏とうりあんずだった。


「だって、どうせ何もしなくてもこのまま死ぬんでしょ? だったら、アタシは、まだ生きていたい。それが今までと違う形でもね。」


それに──、という呟きを最後に、うつむいてもごもごと口を動かした燈利は、意を決したように前を向き、黒板を前に、肩口からこちらを見て、


「アタシは、生きる。葵がそうしたんだ、アタシもそうする。」


じゃあね、と言い残して、燈利は黒板に吸い込まれて、消えた。

燈利が消えたのを見届けた結木は、にいっと嫌な笑顔を浮かべて。


「さあ、選択を」


そう、言った。

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