第3話 転生のその前に

「死んだ、世界に……転生? 転生って、輪廻転生ってこと?」


「待って、じゃあ私、死ぬの?」


「いやだ! 死にたくねぇ!」


一人の女子の言葉を皮切りに、クラス全体が騒然となった。あるものは死にたくないと叫び、あるものは絶望に泣き、あるものは教室から出ようと窓に手をかけて躍起になる。

私はまた、それをどこか遠い世界で行われていることのように、ぼんやりとこの小さな世界を眺めていた。


──ぶつん

黒板が音を立てて、また真っ黒に染まる。

飲み込まれそうな漆黒に、小さな光が差した。


「も〜うるさいなぁ! あなたたちはもう死んでるの! 転移陣が完成したその時にね!」


結木の叫びに、クラスメイトの数名が固まった。

おそらく、固まった数名は私のように、現状をそれなりに把握できているんだろう。だから、その言葉を理解して、動きを止めたんだ。

私たちがもう死んでいるという、その現実を。


「あとは、このまま消えるか、転生するかの二択だよ?」


可愛らしく首をかしげる結木に、何人かが絶望したかのように崩れ落ちた。泣きじゃくる女子を慰めている友人が、口を開いた。


「転生すると、どうなるの? 死んだ世界って、どういうこと? ちゃんと全部、説明してくれない?」


冷静さを具現化したかのような少女、涼素奏すずしろかなで。眼鏡委員長より委員長に向いている彼女だが、委員会が忙しいからとクラス委員長になることはなかった。

私の友人で、一番仲がいい子でもある。


「お! ようやくまともにお話しできる子がいた〜!」


にこっ、と可愛らしく笑う結木。だが、その笑顔は悪魔の笑顔だ。

クラス全員を一瞬で殺した、残忍な神の使い。


「ん〜とねぇ、まず、転生すると──」


結木曰く、転生すると死んだ世界に適応できるように今の魂に沿った体が作られる。つまり、今の体がそっくりそのまま新しく作られるのだそうだ。

そして、死んだ世界というのは、黒板に映った結木が言っていた世界──此処とは違う地球、なのだそうだ。パラレルワールドのようなものなのだろうか、地球という名ではあるが、私たちのいた地球ではないと結木は断言した。


「あそこは、神様のおもちゃ箱だったんだよ──笑っちゃうよねぇ」


すん、と真顔になった結木がいうには、結木が過去に居た地球では、神様がいて、超常現象が日常的に起こっていて、魑魅魍魎が跋扈し、人類は生存圏を確保するために戦っていた。


「ある日、名ばかりの神様が急に、世界に降りてきたんだ〜。そんで、世界を更地にした。それから2回くらい、似たような光景を見てきたよ〜!」


ふひっ、と、結木はまた不気味な笑顔を浮かべた。


「新しくなった世界じゃあ更地そこからまだそんなに経ってなくて、今ようやく文明が発展してきたところなんだよね〜。」


笑顔のまま遠い目をした結木が、虚空を見た。視線が合った気がしたのは、気のせいだろうか。


「私、神様の使いになって初めて知ったよ〜。神様たちは暇つぶしに、自分たちの覇権争いをさせてるんだ、って。自分の生み出した種族で、ね。」


「「まさか……!」」


奏と私の口から、同じ言葉が漏れ落ちた。

はっ、とお互いに顔を見合わせて、口をつぐむ。

嫌な予感がして、お互いにそこから先を言おうとはしない。背中に嫌な汗が伝っているのがわかる。

私は、じっとりとした汗が制服に吸い込まれていくのを感じながら、結木の声を聞いた。


「そう、そのまさかさ! みんなを『自分の手札コマ』として転生させる! 死んだ世界でも立ち回れるような能力ちからを与えてね!」


あぁ、嫌な予感が的中した!


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