第240話 子供達にメチャクチャ萌えた。

 お? その反応はもしや……?

 もしかして、もしかすると、もしかしちゃう?

 ここから始まる恋の予感?

 ああダメ顔がニヤつくのが我慢できないッ!!


 ベルナが何も言わないので、段々と困った笑顔になるゼノ。しかしベルナは、口を真一文字にしたまま、ただキラキラした期待の眼差しでゼノを見上げるだけ。

 言えないよね! 恥ずかしいよね!!

 分かる! 分かりすぎるよベルナ!!

 こういう時はオバちゃんの出番だよねっ!!


 そう思い、私がベルナのサポートに入ろうとした時だった。

「ベルナ、キラキラたくさんほしいの?」

 そうベルナに声をかけたのはアティだった。

 ベッドからヨイショっと降りたアティは、ベルナの横に立ってキョトンとした顔で尋ねる。

 そう聞かれた途端、顔をカッと赤くするベルナ。ああっ! 反応が初々しいっ!!

 フニャリと困ったような顔になり、ワナワナ震える口で何かをベルナが言おうとした時

「ゼノにおねがいしたらいいよ。ゼノ、キレイなのたくさんつくってくれる」

 ニコニコしたアティが、そう言ってベルナの頭をナデナデした。

 なんて尊い光景ッ……! アティが! ベルナのサポートした!! 恥ずかしくて言葉が出て来ないベルナの後押しした!! なんて事! なんて事!! なんて事!!!

 アティ……もう立派な淑女じゃん……まだ五歳になったばっかりなのに、その慈愛はどこから? 元来のものだね? アティの天使性が顔を出し始めたって事だね??


「いっしょにおねがいする?」

 アティが、顔を真っ赤にして震えるベルナの顔を、下から覗き上げてそう尋ねる。

 そんなアティの顔をフルフルと小刻みに震えながら見て、眉毛を八の字にして口を震わせるベルナ。

 そして

「いらないっ!!!」

 そう叫んだかと思うと、手にした石鹸の欠片をギュっと胸に抱き込んだまま、ゼノの部屋を走って出て行ってしまった。

 慌ててその後を追うベネディクト。

 取り残されたアティとゼノは、ベルナが出て行ってしまった部屋の入り口の方を、ポカンとして見ていた。

「ベルナ、いらないっていった……」

 アティは、予想外のベルナの行動に、完全に度肝どぎもを抜かれていた。まさか否定されるとは思ってなかったんだろう。


 誰もが予想していなかったベルナの行動に、その場の全員が啞然としていた。

「ホントにいらないのかな……?」

 ニコラがポカンとしたまま呟いた言葉に、私の我慢が限界突破した。


 ……ッアー!!!

 ベルナのツンが可愛すぎる!!! 恥ずかしくて『うん』って言えなかったんだ! ゼノが欲しいかどうか聞いてくれたのが嬉しいし、アティが一緒にお願いしようかって聞いてくれた事も勿論嬉しかったんだろうし、でも突然だったし兎に角恥ずかしくって、もうどうしたらいいんだろうって気持ちが爆発しちゃったんだね!?

 あーもう! あーもう!! あーもう!!! なんでベルナはそうやってアティとはまた違う私のツボにダイレクトアタックしてくんのかな!?

 アティは素直で可愛い。ベルナは天邪鬼で可愛い。もうっ! やめてっ!!!

「身悶えないでくださいます? 気持ち悪い」

 ベルナの行動にメロメロになっていた私に、グッサリと容赦ない言葉のナイフをブッ刺すマギー。えぇー……余韻にも浸らせてもらえないの?


 私はゴホンと咳を一つし、ちょっと自分を落ち着ける。そして、ポカンと立ち尽くすゼノとアティの前に膝をついた。

「ゼノ、アティ。ありがとうございます。ベルナはきっと、ゼノとアティの言葉が嬉しかったんだと思います。でも素直に、『はい』って言えなかったんじゃないでしょうか?」

 ここにはいないベルナの気持ちを代弁する。あ、でも、ベルナの大切そうな気持ちの部分は勿論ナイショでね。

「ベルナはきっと、突然の事があるとビックリしちゃうんです。だから、後で改めてベルナに聞いてみると良いかもしれませんね」

 そう伝えると、ゼノは『なぁんだ』というホッとした顔、アティは小首を傾げて不思議そうな顔をしていた。

「びっくりしちゃったの?」

 アティには、ベルナの気持ちが理解できなかったみたい。確かに、アティは今ではすっかり素直に自分の欲求を口にするからね。好きなものは好き、好きじゃないものは好きじゃない、したい事はしたい、したくない事はしたくないって。

「そうですね。自分の気持ちを素直に伝えるのが、恥ずかしいって感じる子もいるんですよ」

 私がそう伝えると、アティは

「はずかしい……?」

 小首を傾げて私をキュルンと見上げる可愛いッ!!

 口を尖がらせて何かを考えていたアティは、突然何かを決意したような顔をした。ん? なんだ? 何を決意したのアティ?

「ベルナー!」

 そう叫び、アティはトテトテと消えたベルナの後を追う為に部屋を出て行く。

「アティ! 待って!!」

 ベッドから飛び降り、慌てて後を追うニコラ。そして更にマギーと、いつの間にかいたサミュエルが無言でその後をついていった。


 子供たちって本当に嵐の後みたい。いいわー。好きだよ、そういうの。癒し。マジで。大人同士の腹の探り合いとか本当にキッツイし楽しくないし。

 エリックは相変わらず、ドラゴン(石鹸)を抱いて自分の世界に浸ったまんまで、もうホントエリックはエリックで可愛すぎる。

「……ちょっと分かるね」

 そうポツリと呟いたのはイリアスだった。

 少しだけはにかんだ笑顔を浮かべたイリアスは、ベルナやアティたちが出て行った部屋の入り口の方を、じっと見ていた。


 ***


「万年筆って高価なんだよ。大量生産もまだされていないから持ってる人は多くない。ってことは、これを買える財力とコネがある人が持ち主って事だよ」

 娯楽室の暖炉の前に敷かれたラグの上、イリアスがエリックにそう説明していた。エリックは腕をクロスさせてウンウン唸ってる。……腕組みは、まだ出来ないんだね。いいよそれで。そのままでいて。お願いだからっ!


 夕餉の後、大浴場を子供たちとみんなで楽しんだ。

 エリックはゼノから貰ったドラゴン石鹸を頑なに使おうとしなかったので、結局青い透明な石鹸を渡した。

 分かるよエリック。勿体無くて使えないんだね。

 私はお気に入りを使い潰すタイプなんどけど、妹⑤バジリアがエリックと同じタイプでね。

 例えば、私がバジリアに初めてあげた狩猟ナイフは、結局未だに使ったことはないらしい。

 それを大人たちに伝えたら、獅子伯がサッと視線を逸らしたので突っ込んでみた。

 どうやら、ゼノが獅子伯の為に彫って贈った石鹸を、使えなくて部屋に飾ってるらしい。

 獅子伯とエリックの、意外な共通点を見つけてしまって可笑しかった。


 娯楽室では、子供たちと大人たちが、それぞれの場所でくつろぎながら楽しんでいた。ま、大人たちも今日は小難しい話ではなく、お互いの趣味の話とかしてるんだけどね。

 私は大人の中に混ざりつつ、ついつい子供たちの様子に目を向けてしまっていた。

 あー。湯上りの子供たちって、なんであんなに可愛いの? ホッコホコ、ツッヤツヤ。イリアスやベネディクトもなんだかとってもサッパリとした顔してるし。

 あー。ちびっ子たちに頬ずりしたい。永遠にできる。

 ま、そんな事したらマギーや他の子守に怒られそうだからしないけど。妹たちには? うん! してた!! ウザがられた!!!


 エリックは、さっきから口の中だけで小さくブツブツ呟いている。

 たぶん、まだ頭の中だけで考えるって事が難しいんだろうなぁ。だから思考が全部口に出ちゃう。可愛すぎかよッ……!

「おかねもち……おおくない……でもかえる……コネがある……コネ? イリアス、コネってなんだ?」

 エリックは凄く難しそうな顔をしてイリアスに尋ねる。

「コネって言うのは、色んな事ができる友達が多いって事」

 イリアスがそう解説すると、エリックはほほぅという顔をした。

「ともだちがおおい。そっか。お(↑)れ(↓)とおなじだ」

「エリックは言うほど友達多くないよ」

 イリアス、そのツッコミちょっと可哀そう。

「そうなのか!? でも! イリアスがいるぞ!? ゼノもいるぞ!? アティも! ニコラと、あとあと……ベネディクトと、ベルナと、だんちょうと、レオと、たーにすと──」

 私は兎も角、獅子伯やツァニスまで『友達』枠に入れちゃうんだエリックは。凄いな。しかも、まだ『ツァニス』って言えないんだね。いちいちツボだっ……

「ゆびがたりない!! ホラ! いっぱいいるぞ!!」

「……足の指もあるよ」

 イリアスがニヤニヤしながらそう伝えると、エリックはそうか! という顔をして靴と靴下を脱ぐ。そして子守や護衛たちの名前を呼びつつ足の指を折ろうとして

「……かぞえられないッ!」

 あ、キレた。足の指が思ったように曲げられないからだな。そりゃ無理だよ。私だって足の指で数数えるとか無理だわ。

 イリアスはあらぬ方向へと顔を向けて肩を震わせている。もう、イリアス、どんだけエリックをからかうの好きなんだよ。ラブラブかよ。そりゃベネディクトに嫉妬もするか。


 その時、エリックとイリアスのラグの所に、トテトテトテーっとアティやゼノ、ニコラが近寄って行った。

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