第159話 みんなで夕飯を楽しんだ。
「おいしいっ……!」
じっくりコトコト煮込まれたシチューを一口食べたアティが、必殺・星飛ばし(瞳をキラキラさせる可愛いの
横でアティが食べてる様子を見てた私は、そのキラッキラな瞳と頬を膨らませてモグモグする姿に、思わず昇天しそうになる。
なんでアティのモグモグ姿ってこんなに天使なのっ!? リス!? ハムスター!? いやもっと可愛いぞこれはレベル・世界・次元が違うってばっ!
イカン気合い入れろ!! 油断すると死んでないのに成仏してまう!!!
無事夕飯が作り終わり、広いダイニングで各自がテーブルについて夕食を楽しんだ。
選んだのが高級コテージだから、ホントいちいち設備がモダンで美しくって綺麗!
黒檀の長テーブルに素敵な織物のテーブルマットが敷かれ、その上に沢山の美味しそうな料理がこれでもかって程並んでいた。
テーブル中央にはエリックとアンドレウ夫人、向かい側に私とアティ、イリアスはエリックの隣、ゼノはアティの隣、ニコラは夫人の希望で夫人の隣に座って、ワチャワチャと騒がしい雰囲気の食事が展開された。
そういえば。一応、使用人扱いであるニコラが同席する事の許可をアンドレウ夫人に貰ったんだけど、逆に夫人から「是非お願い。私の隣ね」って指定まで受けた。
ニコラに基本的マナーを教えておいて良かった!!
ホント、ニコラはすっかり夫人のお気に入りだなぁ……前からだけど。油断してると
そうそう。結局料理なんだけどさ。
マッシュポテトを作るには時間が足りなくなってしまったので、シチューで煮込む野菜を少し切らせてもらうだけにとどめた。
テセウスは流石に慣れたもんで。しかも左利き用で切れ味鋭く使いやすい包丁に感動していた。
ゼノは器用で、料理なんてした事なさそうだったのに、すぐに要領を掴んでサクサクと野菜を切っていく。身体の動かし方は苦手でも、ホント手先指先は器用なんだなぁ。実は技術者向きなのかなぁ。
意外だったのはイリアス。
『食べやすい大きさってなんだよ! 具体的な大きさ言って!!』と文句を言いながら、震える手で野菜を切っていた。乱切りだから形は不揃いで構わないんだけど、切られた野菜の大きさがバラバラで、『加減が分からない……』と肩を落としていた。
どんな事でもササッと小器用にこなしてしまうイリアスの、そんな姿を見るのは新鮮で微笑ましかった。
エリックとアティに教える時は、最初私は彼らの後ろから覆い被さり、手を添えて教えた。
添えた左手の指を丸めさせ、野菜を真上から押し付けさせる。
ナイフを持つ時に教えたように、包丁も柄だけではなく、刃に人差し指を当てる事も伝えた。こうすると、刃が向いている方向が指と同じになるからね。指が刃のガイドになって刃の向きがブレなくなる。
そして切る時は、手ではなく手首で押し込むようにする事をゆっくりと教えた。
固い物を切る場合は、手で斬るのではなく腕で斬るんだよね。手はあくまで刃の方向を制御する為であり、指には包丁を持つ以外の力を加えない。
切る時も、刃先を下げて柄の方を上げ、手首を押し付けるように切る。場合によっては、刃の先端はまな板にくっつけたままにするぐらい。
そうすると、力を加える先までの距離が近くなり、力を伝える関節の数も減るから、力がかけやすくなる。
柔らかい物を切る場合は、力ではなく刃の鋭さを利用して引いて切るから、また違う動きになるんだけど。それはまた別の時に教えよう。
包丁を握った手も上からそっと握ってあげて、私は無理に動かさず、アティが動かすのに応じて手を動かす。
危ない時だけ力を入れて動きを止めさせた。
ゆっくりやっていると、次第に迷いのない動きとなり、アッサリと乱切り出来るようになった。
やだこんなところに料理の天才が!? いや料理の鉄人!? アティってば資質の宝庫っ!! 可能性しかない! 可能性しかないっ!! 可能性しかないッ!!!
ま、ちょっとデカかったけど、煮込んじゃえば大丈夫だから無問題!
私はシチューは具材ゴロゴロ派だしね!!
職人さんが丁寧に作って研ぎ上げてくれた包丁は、鋭さが凄くてアティの力でも簡単にニンジンを切ることが出来た。
うん。やっぱり鋭さは必要だね。それだけ危険だけれど、使い方を間違えなければ逆に扱いやすい。
そういえばっ!!
指を丸めた手の事を、例にならって『猫の手』とアティに教えたら、『いぬがいい』って言われたー!!! どういうこだわり!? 勿論良いよっ! これは犬の手ね! ワンコの手ッ!! もうそれが世界標準ねっ!! 決・定デス!!!
エリックにも同じように教えたんだけどさ……エリックはいちいち動作が大きくて、都度都度止めたよ。
まな板まで切る気か! という程力を入れるし。いやアレホント、自分で指落としそうでヒヤヒヤした。
何度も何度も力加減を教えたんだけど……結局最後まで一人で出来るようにはならなかったなぁ。エネルギー有り余り過ぎるやろ……
優しくね、ゆっくりね、と言ったんだけど。
『やさしくッ!!』って、ガッと力入れるんだもん。お前の優しさ力強ェなっ!!
ま、向き不向きがあるからな。やってれば、そのうちある程度なら出来るようになるわ。……多分ね。
それよりも! 切るたんびに『とうっ!』とか『やぁ!』とか『たぁ!』ってイチイチ言うもんだからっ……!
もう笑い噛み殺すのが大変だったぞチキショウっ!! その掛け声反則やぞ!
ま、ちょびっと野菜を切っただけだったけれど。
自分たちで切った野菜が煮込まれたシチューは、いつもよりも美味しく感じたんだろうなぁ。
エリックも口の周りをシチューでベタベタにしながら、目をキラキラさせて食べていた。
ゼノもイリアスも、例に漏れず。
なんだろう。旅行の効果もあったのかな? いつもよりもモリモリ食べてた気がするなァ。うん。良きかな良きかな。育ち盛りだからね。動いた分沢山補給しなきゃね!
テセウスは……本人がそれでいいなら構わないけど、料理したのはテセウスだったのに、食べる時に出てきたのはニコラだった。
彼は自分が食材を切った事は覚えていない。だから、シチューの一部の野菜は子供たちで切った事を伝えてみた。
そうしたら。シチューから野菜をスプーンですくう度に「これおっきい」「これちっちゃい」とニコニコしながら楽しんで食事をしていた。
「黙って食べてよ」と、イリアスが恥ずかしそうにしていたのがまたっ!! ホント良かった。彼にもまだ子供らしい一面があったんだね! ……このまま腹グロ一直線になったらどうしようかと思ったよ。
あ、予想外のオマケもついてきた。
普段、子供達と殆ど接点もないし、彼らが食事する姿を見る事もない料理人たちが、食事する子供達の姿を、とても嬉しそうに見ていたんだよね。
そりゃあんだけ美味しそうに食べてくれたら嬉しいよね! 分かるゥー。
こんなワチャワチャした食事風景に、アンドレウ夫人がどう反応するかと思っていたけれど。
確かに、食器がぶつかるような音にはさすがに眉をひそめていたが(勿論、都度都度子供たちには指摘した。特にエリックに。エリックを。エリックばっかり)、『素朴なお料理も美味しいし、お茶の時間のおしゃべりのようで楽しいわ』と、コロコロと笑ってた。
特にニコラと楽し気に、冬のオシャレの方法についてアレコレ話していたし。
あれ? でも、と思って夫人に聞いてみた。
「ディナーを他の貴族の方々とご一緒する事もありますよね?」
と。
するとアンドレウ夫人は、顔にウンザリと言わんばかりの表情を浮かべて
「あれは男たちの見栄の張り合いを拝まされるだけですし、女性は口を開かず横でニコニコしている事だけが求められますから。入れない話に耳を傾け、かといって時には上手い返答をする事を求められるから、折角の美味しいお料理も楽しめないですし。好きではないわ」
と、サラリと毒を吐いていた。
あー……確かにねぇ。ツァニスに連れられて
でも、良かった。
子供たちはまぁ楽しんでもらえるとは思っていたけど、アンドレウ夫人にもそこそこ楽しんでもらえたようで。こっちに気を使ってくれているというのは感じていたけれど、それを表に出さずに合わせてくれるのは流石、公爵夫人だと思った。
高みにいても、ちゃんと視野を広く持っている人ほど、他の事への配慮が自然で無理がなく、それでいて行き届く。
彼女の行動の一つ一つについても、とても勉強になった。
私も、ああならないといけないんだよなぁ。
道は険しいなぁ……
アティにも、ああなって欲しい。このままいけば、アティも公爵夫人だ。
私は、横でパンをちぎってはモグモグ、ちぎってはモグモグしているアティに視線を落とす。
彼女が将来、どんな素敵な女性になるのかを想像して──そのあまりの素敵っぷりに、ちょっと身悶えた。
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