第77話 子守頭に全てを話した。
そうか。
そういう事なのか。
だとしたら、指咥えて見てる場合じゃねぇ。
場合によってはアティに危険が及ぶ。
でも、その情報の裏付けが欲しい。
「サミュエル。貴方に調べて欲しい事があります」
私はサミュエルの両腕を掴んで顔を寄せる。
「なっ……なんで──」
俺がそんな事を、と言いたいだろう。
私はすぐさま交換条件を提示した。
「セルギオスが持っている情報と交換では如何ですか?」
その言葉に、サミュエルの顔が一瞬
「待ち合わせ場所などは追って。どうです?」
私がそうダメ押すと、サミュエルは小さく頷いた。
よし。
これで恐らく裏付けが取れる。
あとは、色々な準備だな。
面白い事になってきた。
あのジジイ、
ダニエラもな。私を舐めくさったのを存分に後悔するといい。
アティの影でも踏んでみろ。バッキバキに全身の骨折って軟体動物にしてやるわ。
「さぁ! 忙しくなりますよ! その為には体力をつけなければなりません! そろそろおやつの時間にしましょう!」
私は手をパチンと叩いてそう声を張り上げた。
「おやつ!!」
「おやつ」
エリックとアティ、そして無言だったけどゼノが、その言葉に目をキラキラさせて反応していた。
***
事を起こす時はマギーに相談する。
前にそう彼女と約束した通り、私はマギーを呼び出して、これから行おうとする事について、すべて話す事にした。
そして──
「貴女が……あの、怪しい男だったと?」
マギーが目を剥いて私を頭の先から足元まで見やった。
マギーに、私がセルギオスなのだと告白した。
彼女は言いたくなかったであろう秘密を私に教えてくれたのだ。私が秘密を持っていたらフェアじゃない。しかも、彼女に協力して欲しい事があったのだ。
最初のアティの婚約内定の時に、アティをランタンから守った事。
メルクーリ領別荘にて、アティを取り返してきたのは実は私だった事。
昔、セルギオスとして剣術大会で大暴れしていた時のファンがツァニス侯爵で、彼はセルギオスの血を残したくて私と結婚した事。
しかしツァニス侯爵には秘密にしている事。
全て、話した。
彼女は、呆れにも似た表情で私を見ていた。
しかし、何か合点がいったのか、お腹を抱えて笑い出した。
……マギーが爆笑してる。あのマギーが。爆笑、するんだ。
なんで笑ってるのか聞いてみたら。
「屋敷で噂があるんですよ」
と、まことしやかに屋敷で囁かれている噂について教えてくれた。
……私が男装してアレコレしてる所を、家人たちに目撃されているのだと、そこで知った。
しかも、何。私が殺して使役してる魔物って。魔物なんか倒せるかい。しかも使役って。使役って。そんな力ねぇよ。もはや私自身を化け物扱いしてるっつーの。
しかし、噂は噂のままにしておこう。その方が動きやすいし……別に、魔物扱いされた事も、化け物扱いされた事も、気にしてないもん。気にして……ないもん。
「それで? 私にそれを言ったという事は、何か目的があるんですよね?」
ひとしきり笑って落ち着いたマギーが、真剣な顔に戻って改めてそう言ってきた。
「そう。今度、舞踏会があって、その事で協力して欲しい事があるんだよね」
そんな私の言葉に、彼女は首を捻る。
「でも、貴女は除け者にされてますよね?」
うう……ズバッと言うなぁ。
マギーも知ってたのか。くっそう。
でも。私はそれを知って涙でハンカチ濡らすタイプじゃねぇぞ。
「でもね? それを逆手に取って、やらかしてやろうと思ってて──」
私は、思いついた事をマギーへと伝えた。
それを聞いて驚いていたマギーだったが。
最後には、ニヤリと黒い微笑みを顔に浮かべていた。
「それは面白そうですね」
お? 乗り気?
「もしかしたら、マギーに『そんな馬鹿な事はヤメとけ』と言われるかと思ったけど」
「そんな事言いませんよ。自爆するのは貴女だけですからね」
うう、酷い。
「前にも言った通り、貴女は好きに大暴れすればいいのですよ」
だね。前にもそう言ってくれてたね。
「しかし、それ、単純に貴女がスッキリしたいだけですよね? しかも、具体的にどうやるんですか?」
確かに。今伝えたのは『何がやりたいか』だけだった。
確かに、コレだけ聞いたら、ただ私が子爵とダニエラにザマァしたいだけってなる。
なので私は、自分のザマァ以外の、ある重要な理由と具体的なやり方をマギーへと伝えた。
しかし、それを聞いたマギーが怪訝な顔をした。
「本当に……?」
ま、疑うよね。普通は。
「まだ、ネタの裏取りはしてないけど、恐らく。その取っ掛かりとしての、舞踏会だよ。
しかもその後、多分ダニエラはアティを可能な限り利用すると思うんだよね」
「ああ、でしょうね」
同意早ァーい。被せ気味ィー。
「しかも、利用し終わったアティは邪険にされるか、何かしらの理由をつけられて、場合によっては屋敷から追い出されちゃう。最悪、事故に見せかけて──」
私がそう言葉を続けると、マギーは恐ろしい般若の顔をした。殺気出てるよ殺気。
「確かに、それが本当だとすると、あり得ない話ではないですね」
そう彼女も頷いた。
しかし、同時に難しい顔をする。
「……しかし、そのネタの裏付け、少し難しいかもしれないですね」
そう彼女が漏らす通り、私も実はそう思っていた。
「ネタの裏付けをサミュエルに調べてもらおうと思ってたんだけど……だよね。私もそんな気がするんだ」
先日、まずはと思ってサミュエルにお願いしたけれど。
後々気づいた。恐らく、彼には荷が重い。
「最悪──」
流石に言いにくくて、ちょっと言い淀んでしまった。意を決して口を開く。
「一番大切な情報を隠される可能性があるんだよね」
場合によっては、嘘をつかれる可能性もある。今回のことについては、彼を完全には信用できない。
「では、今回はサミュエルは巻き込まない方向ですか?」
マギーが仕方ないと言わんばかりにため息をついたが、私は首を横に振った。
「……サミュエルの動きを見たい。彼が、どうするのか。今回の事は、彼も自分の事を整理する良いタイミングだと思うし」
今回の事は彼にとっても岐路になる。そう感じる。
私はお膳立てするだけだ。あとは彼がどうするのか選ぶだけ。
「……しかし、それだと裏付けは無理ですね」
マギーは少し諦めを含んで首を横に振った。
確かに、今回の事は裏付けがなければ絶対に上手くいかない。
しかし、そこで私はマギーの雰囲気とは逆にニッコリと笑った。マギー、ドン引き。
「……何ですか気持ち悪い」
ヒドイな。
「そこでマギーの出番だよ。むしろ、マギーじゃないと出来ないんだ」
負けずに彼女にグイっと顔を寄せた。
グイっと押し戻された。拒否早いィ。
「私じゃできない事なんてないでしょう」
「そんな事ないんだなぁ。絶対貴女じゃなきゃできないんだって」
「悪い顔……キモっ」
もう少しオブラートに包んで。
私はそこから、ネタの裏付け方法と当日必要と思われるものについて、マギーにとつとつと相談するのだった。
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