第30話 環境が改善してきた。
本当に疲れた……
今日はホント、出来事が盛り沢山だったなぁ。
ずっと気を張り続けた二人は、私の言葉を背中越しに聞いてホッとしていたようだった。
お疲れ様。
流石に、イリアスが戻ってきた時には
最低限の注意だけでいいと、付け足したけど。
私は、あまり人前をウロウロすると、いつ侯爵や他の人間に気付かれるやもしれないと思い、奥へと引っ込んだ。
陰から暫く見守っていたが、イリアスは怪しい動きを見せなくなった。
むしろ、周りをキョロキョロして誰かを探している風だった。
……私じゃない事を祈る。
暫く見守り、パーティも佳境になった頃、私は屋敷を出て侯爵家へと戻った。
一抹の不安があったものの、一応、イリアスの言葉を信じて。
そして、もし私がいなくなってからアティに何かしようもんなら、それこそ八つ裂きにする事を固く誓って。
私の心配をよそに、アティは元気よく戻ってきた。
行った先で誕生日パーティを開いてもらった事、沢山のお祝いの言葉と沢山のプレゼントを貰った事を、溢れる感情と共に説明してくれた。
夜寝る時も、興奮して全然眠る気配もなく。
正直、私の方が疲れてて、先に眠ってしまったぐらい。
ま、途中何度も身体を揺すられて強制的に起こされ、続きをとうとうと語られたけどね。
たまにはこんなアティのワガママに付き合うのも悪くない。と、いうか。ウェルカム。
疲れてなければ、オールナイトでパーティナイッをしたかったけどね。
ムリだったよ……
ま、途中でアティも突然電池切れ起こして眠りこけたけどね。
ちょっと目を離したスキにスヤスヤ眠ってたのはビックリしたよ! もう!! 寝顔カワイイっ!!!
その日以来、アティの周りは落ち着きを取り戻した気がした。
侯爵は、アティとある程度コミュニケーションを取るようになった。
まぁ、食事の時に美味しいかとか、勉強はどうだとか、何が好きかとか、まるで思春期の娘との会話に困った父親みたいな事をポツリポツリと聞く程度だったけれど、前に比べたら劇的な変化だ。
最初は、アティは侯爵の予想外の行動に困って言葉少なだったけれど、慣れてからは自分からも侯爵に質問を投げるようになっていった。
小さな変化だけど、アティの人生にとっては大きな変化。
私は、そんな二人のやりとりを暖かく見守った。
当初は小難しい歴史や数学、字の練習とか、そんなんばっかりさせていたけれど、他の事をカリキュラムに取り入れるようになったのだ。
ま、アティから『おうまさんにのりたい!』とリクエストがあったせいもあるけれど。
ピクニックに行った時に、馬に乗ったのがよほど楽しかったようだ。
乗馬を始め、身近な動物の事から植物の事、屋敷で働く人々が何をしているのかや、絵を描いたり工作したり楽器を弾いたり。ジャンル問わず様々な事をアティに教えるようになった。
これで、アティの視野が劇的に広くなるだろう。そこから、アティは自分の好きなもの・得意なものを見つけられる。
このまま上手く行けば、凝り固まったヤバイ女にはならなそうで安心した。
アティが素直な我儘を言えるようになったからかもしれない。
嫌なものは嫌、好きなものは好き、そう、ちゃんと主張するようになったお陰で、マギーは時に手を焼いて私にヘルプを出してくる事も多くなった。
逆に、私からヘルプ出す事もあったしね。
また、アティは私を見てよく真似をするようになったのか、自分の事は自分でやりたがるようになった。
その日着る洋服を自分で選んだり、自分で髪を結びたがったり。
まぁ、慣れないから出来は悲惨なものだったけど、私もマギーも、アティのその率先して動く気持ちを大切にしたくて、メチャメチャ褒めちぎった。
最初は満足げだったアティも、マギーが手直ししてくれた綺麗な髪アレンジに感嘆し、やり方を教わったりしていた。
アティもマギーも、本当に楽しそうだった。
エリックも、相変わらず定期的にウチに通っている。
勉強もちゃんとやれと言ったら、終いには家庭教師ごとウチに来るようになったよ。
……アンドレウ公爵から目をつけられるから嫌なんだけどなぁ。
でも、キラキラした目で色んなことに興味を持ち、なんでもまずはやってみよう! というエリックの勢いを削ぎたくなくて、私はエリックが訪れるままにした。
アティとの仲も良くなってきたしね。
最初はエリックは『アティは守るべき姫』という感覚で、なんか微妙に一線を引いていたけれど、そこはホラ。まだ子供だから。
二人でよく色んな事をして遊ぶようになった。
お互い、価値観が違って喧嘩になる事もあったけれど、意見がぶつかる事はままある事だ。
私は二人に、お互いどう感じたのかをなるべく言葉で説明出来るようにさせた。ある程度ね。全部じゃない。気持ちを全て言葉にするなんて無理だからね。
それに、無理矢理仲直りはさせなかった。
嫌なものは嫌。許したくない事は許す必要はない。でも、それと同時に、相手の好きな部分・許せる部分も出来るだけ見つけるように伝えた。
ま、そう言いつつさ。私にも、大嫌いでどうしても許せない人間の一人や二人、いるんだけどさ。
二人にはそうなって欲しくなくて。
相手の嫌いな部分もありつつ、好きな部分もある。その好きな部分で繋がり続ける。
それが、これから夫婦になる二人に必要な事だと思ったから。
問題は。偏執少年・イリアスだよね。
エリックにくっついて、勿論ウチにも毎回来た。
しかし、なんか、熱視線を感じるので居心地が悪かった。
……もしかして、エリックから私に、依存対象変えたんじゃなかろうな……
イリアスは、事あるごとに試し行動を取るようになった。
私をわざと怒らせたり、かと思ったら急に甘えてきたり。
私が認めてくれるのか、見放さないかどうか、彼は不安で何度も確認したくなるのだろう。
根気よく、でもあんまり深入りしないよう距離感を気をつけて、イリアス少年に対応した。
嫌なことされたら、本人を否定せず、彼の行動そのものを抗議する。甘えてきたら、まぁある程度は甘えさせるけれど、特別扱いはしない。
ホント、その塩梅が大変だった……
イライラしたよ。イライラしたよ! 私も出来た人間じゃないからさァ! 子供がやることだからある程度は我慢したけど限界があるよォ?!
その都度その都度、私はイリアスに根気よく言葉で説明した。
人に依存して承認欲求を満たすのではなく、自分で自分の為に行動を起こしなさい、自分で自分が満足できるようになりなさい、自己満足万歳、と。
どんだけ伝わったのか疑問だけどねー。
頭いいから概念は理解してるだろうけど、まだ子供だから気持ちが追いついてないみたい。
こっちのお守りもしなきゃいけないのか。
こりゃ大変だ……
ま。
アティの周りの問題は、緊急で改善必要な事は無くなった気がする。
少し、安心できるようになった。
しかし、私自身の問題が、全く解決されていなかった。
アティの事が万事無問題なら、それでもいいかと思ったけれど、そうはいかなかった。
ある日、侯爵から呼び出しをくらったのだ。
そこへ
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