第29話 事件を解決した。
散々考えて、私は一つの考えが頭に浮かんだ。
「イリアス様、貴方実は……自分の事あまり好きではないのではないですか?」
自分を見て欲しい、自分を肯定して欲しいって、つまりは承認欲求の現れだよな。
それって、自己承認が出来ないから、他者承認に依存するんだ。
彼の場合、そのやり方が最悪なだけで。
「自分に自信がないから、他人に認められたいのではないでしょうか?」
苦し紛れに捻り出したワリには、的を射てるんじゃね?
だってさ。
誰からも認められないんだもん。そりゃ自分でも自信はなくなるわな。
人は幼い頃に、沢山の人に囲まれて、その意見や考え、行動を見たり見られたり、賛同を得たり否定されたりして、アイデンティティを構築していく。
だけど、誰もその行動に何も言ってくれなかったら?
良いも悪いも判断がつけられない。つけるための言葉も行動も周りから貰えないのだから。
自信を持つには、誰かに肯定されなければならない。
自己肯定感が強ければ自分で肯定出来るが、自己肯定感は、まずは幼い頃に身近な存在に肯定される事によって
存在を否定されて育ったイリアスは、自己肯定感が低いんだ。否定されなくても、つどつど弟と比較され、貶められてきた。
だから、比べられて選ばれる自信がない。
自信がないから相手の周りにいる、自分から視線を逸らさせてしまう可能性がある人を先に排除する。
彼は、そうして生きてきたんだ。そして、これからもそう生きていくハズだった。
乙女ゲームの中では、確か宰相候補だったよなぁ。弟は──確か、何か罪を犯して流刑になったとか。
……ああ、コイツの差金か。ホントヤバいヤツにしかならんな。
しかし……
「イリアス様には、そのずば抜けて良い頭脳があるのに。勿体ない」
私は、そうポツリと呟いた。
だってさ。たった十一歳で策略を巡らせて、自分が怪しまれないよう立ち振る舞う事が出来るんだよ?
これって他の人間には真似できる芸当じゃないよなぁ。
私が十一歳の頃は何してたかな……うん。騎士になりたくて剣を振り回してた。アホだったなぁ。
世の中の仕組みを、これっぽっちも理解してなかった。
かたやコッチの偏執少年は、自分が子供である事を逆手に取って相手を油断させる事までするんだから。
末恐ろしい子。
「頭脳……? 僕が、頭が良い?」
呆然としていたイリアスが、ポツリとそう漏らした。
「そうですよ。自覚なかったんですか?」
そう返すと、彼は視線を巡らせて考え込んだ。
え、マジで? 自分の頭の良さ、気づいてなかったの?!
ああ、そうか。誰にもそう言われた事なかったのか。
そんなに無視されてたんか。キッツイなぁ、それ。
「エリック様を見てみなさい。貴方が四歳の頃、こうでした?!」
引き合いに出して申し訳ないけど、エリックはまぁ少し残念な感じではあるけど、素直で可愛らしい、標準的な幼児だ。……頭の良さは微妙だけど、それはこれからでも巻き返せる。たぶん。きっと。そうじゃないと困る。
イリアスは、私に名前を言われて意味も分からず誇らしげな顔をしたエリックを見た。
そして……何かを悟ったよう。
突然、なんだか嬉しそうな色を顔に浮かべ始めたイリアス。
ああ、理解できたようだ。自分の頭が周りと比較して良いって事を。
「貴方は、素直に努力を続ければ、そのうちエリック様の親友であり片腕となれるでしょう。
でもそれは、アティの存在によって脅かされるようなものではありません。
アティとイリアス様は違う存在です。エリック様がアティに求めるものと、イリアス様に求めるものは違います」
そう。
違うんだ。
人の周りには、一人しか立てないワケじゃない。
それに、エリックはちょい残念だけど度量の狭い人間にはならない。短絡的だけど正義感も強い。友人を大切にする人間に育つ。
心配なんかしなくても、イリアス自身からエリックから離れない限り、エリックは
「エリック様が大切にする人を、貴方も大切にすれば、エリック様は更に貴方を信頼します。
だから、大丈夫なんですよ」
私は、最後にそう締めた。
結構、イイ感じの事言えたんじゃね?!
心の中で自画自賛。満足してイリアスを見てみると、なんだかキラキラした目で私を見上げていた。
あれ。
なんでエリックじゃなくて、私をそんな目で見るの?
「セレーネ様」
え。
なんで、そんな熱の籠った声で私の名前を呼ぶの?
「僕は、もっと貴女に認められるような人間になりたい」
え、いや。
別に。
私に認められる必要、ある?
「貴女が、エリックやアティ様を大事になさるなら、僕もします」
ん?
いや、そこは、『エリックが大事になさるなら』の間違いじゃね?
「だから、僕を、認めてくれますか?」
「いや、認めるも何も。もう私はイリアス様を充分過ぎるほど認めてますが?」
じゃなきゃ、ここまでしてアティを守りに来ない。
脅威以外の何物でもないやろ。
今回、あらゆる事態が想定出来た。
そんな
だから、私はサプライズパーティを提案したのだ。
彼が、このイベントで事を起こす事を、敢えて狙って。隙を見せて誘ったのだ。
散々『私は行けない』とアピールしてたのもそう。そうしないと、イリアスは私の行動を警戒していただろう。油断してもらう為だった。
油断を誘えたから、セルギオスとして潜入して動けたんだし。
これが苦肉の策だったんだよ。
「そうですか。嬉しい」
そう言って、頬を赤らめる少年イリアス。
彼の性根を知ってるから、その頬染めも怖いんですけど。普通に見たらいたいけな少年が照れてるように見えるけど、彼だからな。そんな素直な反応だと到底思えない。
「いりあす、てれてる!」
エリックが、キャッキャと喜んで飛び跳ねていた。
私はそんなエリックの頭をポンポンと撫でて落ち着かせる。
まだ、終わってない。
「イリアス様。もう、アティに危害は加えないと、約束してくださいますか?」
そう。目的はコレだ。
アティの敵を根本除去。
それが出来なきゃ、今日までの苦労は水の泡だ。
「約束できないなら、私は常に、貴方を監視しなければなりません。
先程言ったように、私は貴方を、いつでも消せます」
と、言いつつさ。将来的には無理になるんだよ。
彼は将来、国の上の方に立つ人間。むしろ、彼の言葉
まぁ、全力で抵抗はしますが。
「……僕を、監視?」
イリアスは、その言葉でニヤリと笑った。
え、なんで──あ、しまった! そういう事か!!
「どうしようかなぁ。僕がアティ様の命を狙い続けたら、貴女は僕を監視し続けてくれるんですよね?」
なんでそういう方向に行くんだよヤンデレめがっ!!
「いえ。面倒くさいので、サッサと始末しますよ。さっき言った方法で」
首の骨折ってバラバラに刻んで家畜の餌にするって、私さっき警告したよね?! したよね?! 忘れちゃった?!
「そっかぁ。怖いなぁ。
分かりました。もうアティ様に手出しはしません」
少しガッカリしたような風を装い、それでも目に潜む光は絶えさせずにイリアス少年は
「少なくとも、
約束します。
まぁ、気が変わることはあるかもしれないですが。それは先のことだから、今は分からないですよね」
少年らしい
うっわ、コイツ、マジでタチが悪い。
しかし、ここまで言っているのなら、一応、この場では信用しよう。
「それでは、先にお戻りください。エリック様も。あ、イリアス様は本当に着替えてきてくださいね。水を頭から被ってますから」
私は、二人から離れて頭を下げた。
「だんちょう、いっちゃうの?」
エリックのショボンとした顔。お散歩断られた時の犬みたいな顔をするんじゃない! 私がそういう顔に弱いと分かってたの
「お忘れですか? 私にはアティ様をお守りする役目があります。アティ様から離れすぎました。戻ります。
エリック様も、アティ様を守る役目はいいのですか? ドラゴン騎士団の一員なのに?」
そう言うと、エリックはハッとした顔をした。
お前、忘れてたな? その設定。
「先程も言いましたが、剣は──」
「けんはだれかをまもるためにふるう! あてぃをまもるためだ!」
手にしたオモチャの剣をブンブンと振り回すエリック。
私は笑顔で頷いた。
「私は、陰から見ていますからね」
エリックと、そして何よりイリアスに向けて、そう言った。
そして部屋を出ていく。
なんとか、今日の脅威はこれで去っただろう。
本当にイリアス少年が改心してくれていたら、もう大丈夫だと思うんだけど、そこにはイマイチ自信はない。
私は、自分が言った言葉の通り、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます