第26話 パーティが始まった。
気づくと、
そろそろアティが来るんだ。
そう思うと、私も物凄く緊張してきた。
この緊張は、剣術大会の比じゃないね。あっちむしろウキウキワクワクして浮き足立ってたなぁ。武者振るいがしてジッとしてられなかったね! アレは楽しかった。
私は使った食器などを下げる役目を仰せつかった。人に近寄っても怪しまれない。やったね。
部屋の隅で待機する。
手にはクラッカーを持たされた。
そして、
使用人たちが息を潜めるのが分かる。
沈黙により、廊下を歩くコツコツという靴音が聞こえた。
来る。
私はクラッカーの紐を持った。ドキドキし過ぎてアティが入ってくる前に紐引きそう!!
手が滑らないか、そっちも違う意味でドキドキするー!!
足音が、扉の前で止まる。
私も息を止める。
扉が少しずつ開かれた。
そこには、不思議そうな顔のアティの姿が。
その瞬間──
「四歳のお誕生日おめでとうございますアティ様ー!!」
そんな歓声と共に、そこ此処で鳴らされるクラッカー。
飛び散るキラキラとした紙吹雪と紙テープがアティへと降り注いだ。
私もタイミングを合わせてクラッカーの紐を引く。
パァンという小気味良い音が響いた。
「……」
アティはビックリ顔で固まっている。
まさか、こんな事が起きるなんて予想もしてなかったのだろう。
動けなくなってる! お目目がまん丸やぞ! そんなアティもメチャクチャ可愛いぞっ!!
アティが固まって動けなくなってしまったので、
みんな、アティの反応待ちだ。誰も言葉を発せない。
その時
「誕生日おめでとう、アティ」
固まったアティの肩にそっと手を置いて、侯爵が膝をついてアティの顔を覗き込んだ。
暫く固まっていたアティだったが、部屋に集まった使用人たち、美しく飾られた部屋、そして、そばにいる侯爵の顔を順々に見て──顔をクシャリと歪ませた。
「おとうさまぁ」
アティが、フニャフニャとした泣き声を上げて侯爵の首に抱きついた。
アレは嬉し泣きだ。ビックリして嬉しくて感情が爆発してしまったんだ。
そんなアティを、侯爵は優しく抱きしめた。
ああん羨ましい!!
あの抱きつかれる役目は私がやりたかったァー!!
でも。
この目でアティが喜ぶ姿が見えたんだからヨシとしよう。ちょっと遠いけど。
私は拍手を贈る。
すると、それに釣られてそこここから拍手が上がり、やがて大喝采となった。
「さぁ、まずは席に着こうではないか。婚約も無事相成った事と、アティ嬢の誕生日を祝おう!」
侯爵の後ろから出てきたのは、この屋敷の
その横には、ほっぺたを真っ赤にして興奮するエリックが。
そして、その後ろには偏執少年・イリアスの姿があった。
アンドレウ公爵のその声で、入り口にいた人々が
さあ、本番はここからだ。
主要人物や来賓メンバーが席につくと、飲み物が次々にサーブされた。
使用人たちが入り乱れる中、私は一点を凝視して動かなかった。
ヤンデレ攻略対象、アティをのちに殺す男、イリアス。
彼は、エリックの隣──アティのほぼ向かいに座っていた。
手は届かない範囲。
しかし、アティの動きを逐一確認できる場所。
私は、イリアスの一挙手一投足に注視した。
と、動いた!
近くの使用人に声をかけ──席を立つ。
席の前で後ろを向いて待っている。
何を?
あ、成る程そうか。
私は、イリアスが見えるが向こうからは私の姿が物陰になって見えにくい場所へ移動する。
そして、彼の手元に注目した。
シャンパングラスやシャンパンボトルが行き交う中、イリアスは紫色の飲み物を受け取る。
ジュースだ。子供用の。
彼は、二つのグラスを上から持って受け取り、テーブルに置いて持ち直してから、一つをエリックの前に置いた。
エリックが速攻で飲もうとしたので、耳打ちして飲むのをやめさせる。エリック偉いよく我慢した。
そして、その足でアティの方へと近寄り、彼女の前にもう片方のグラスを置いた。
アティはグラスを両手で抱え、自分の方へと引き寄せる。
その時、隣に座った
乾杯まで待つんだよ、そう言われたのだろう。
アティはグラスから手を離して、それでもジュースからは目を離さず大人しく座っていた。……いい子ッ!!!
飲み物がサーブされ終わる頃、沈黙が降り立つ。
すると、シャンパングラスを持ったアンドレウ公爵が立ち上がった。
「今日というめでたい日にお集まりありがとう──」
なんだか偉そうにスピーチを始めたが、私はそんなもの聞いちゃいなかった。
イリアスとアティの動きに集中する。
二人から視線を外さず、サーブテーブルに置かれていたシャンパンボトルを手に取り移動した。
さりげなく動いて
そして二人の背中にそっと囁いた。
「振り向かないで聞いて。アティにそのジュースを飲ませないで下さい。乾杯が終わったら、飲み物を交換して。交換したモノはどこかにやらず、手元に置いといて下さい」
私の声に、二人の背中がビクリと動いた。しかし言われた通り振り返らない。
「サミュエル様、聞こえたらシャンパンを一口飲んで」
そう言うと、
そしてそこから更に移動した。
「──それでは皆様」
アンドレウ公爵の言葉が最後の締めにかかる。
私は目的の場所へ辿り着き、タイミングを
「乾杯!」
「「乾杯ー!」」
人々が、グラスを掲げて唱和した。
その瞬間──
ドンッ!
「うわっ」
私にぶつかられたイリアスが、手にした飲み物を溢して
周りは乾杯の歓声に包まれている。この様子に気付いてる者は少なかった。
私は、後ろから駆け寄ろうとしてきたメイドを手で制する。
そして片膝をついて、袖口をジュースで汚してしまったイリアスにチーフを当てた。
「申し訳ありませんイリアス様」
私は濡れた彼の手を拭く。
しかし、彼は焦った様子で、私ではなくアティの方に注目していた。
チラリとそちらを見ると、
交換前のグラスは、しっかりと
「チッ」
「イリアス様、お着替えなさいましょう」
私は、イリアスの手を掴んで彼を立つように促した。
「そんなの別に──」
そう言いかけた彼が、私の顔を見てハッとする。
「お前は──」
「イリアス様、さあ、こちらへ」
彼の言葉に被せて、有無を言わさず手を引いて席を立たせた。
膝をついた私より背の高くなった彼を見上げて
「お前のした事、全部見た。ここでお前にあのジュースを飲ませて、お前がしようとした事を明るみに出すことも出来る。どうする?」
彼にしか聞こえない声でそう囁く。
すると、彼はギリリと歯軋りしたが抵抗はしなかった。
私は笑顔で立ち上がり
「どうぞこちらへ」
彼の背中を押して、
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