俺の如意棒……

瑞沢ゆう

俺の如意棒の話

 俺はある日、素敵な如意棒を手に入れた。

 今まで持っていた物は小さく軟弱なので捨てた。


 新しい如意棒は、固く、しなやかで、自由自在に伸び縮みさせる事が出来る。俺は試したくなった。誰かと戦う事で、この好奇心と欲を満たしたくなったのだ。


 最初の相手は道ゆく普通の奴を選んだ。

 先ずは、今までとの違いを確かめたかった。


 対戦相手を前にみるみると固く伸びる如意棒。

 その速さに、俺は思わずニヤけてしまった。


 俺の如意棒に驚く相手。少し触ってみたいと言うので、存分に感触を味合わせてやった。


「こんなので……」


 相手はゾクゾクと身を震わせ、恐怖とも光悦とも言い難い表情で俺の如意棒を確かめていた。


「早くやろう」

「わ、わかった……」


 俺も新しい如意棒を使いたくてウズウズしていたので、急かすように開戦を申し入れた。相手も同じ気持ちだったのか、二つ返事で了承を得られた。


 俺は今まで守る事が多かったのだが、この日は新しい如意棒を手に入れた高揚感からか、攻めに攻めていた。


「うっ! あっ!」

「まだまだ!」


 俺の攻めに防戦一方の対戦相手。

 汗を流し、思わずくぐもった声を上げる。


 その声で俺の闘志は更に燃え上がった。

 色んな姿勢や体制で新しい如意棒を突く。


 角度を変えて突いてみたり、時には敢えて如意棒を短くする事で、相手の嫌がるポイントをピンポイントで攻める。


「もうっ、むりぃぃーっ!」

「ふっ、他愛ない」


 新しい如意棒を手に入れた最初の対戦は、俺の圧倒的な勝利に終わった。汗を拭き、次の戦いへ向かう俺を引き留めようとする対戦相手。


「もう一度! もう一度お願いっ!」


 不憫に思った俺は、もう一度相手をしてやる事にした。

 だが、次の対戦はものの数分で呆気なく終わってしまった。


 白目を向いて倒れる対戦相手。

 俺の如意棒を舐めすぎたせいだろう。


「次にいくか」


 まだまだ試したりない俺は、次々と対戦相手を求め街を徘徊する。対戦が終わっても興奮が治まらない俺は、なりふり構わず対戦を申しこんでいく。


 中でもボストロールとの対戦は強烈だった。あれはダメだ。対戦が終わった後の如意棒が強烈に臭かった。


 それで目が覚めた俺は、新しい相棒となった如意棒にありがとうの意味も込め、丁寧にメンテナンスして次の対戦に備える事にした。


 そして一週間が過ぎた頃、俺は次の対戦を求め再度街に繰り出した。狙うは細身で強力な武器を持つ者や、少し歳はいっているが、技量が優れた者だ。


 この日の為に一週間戦う事を我慢し、ひたすらイメージトレーニングをしてきたのだ。その特訓の成果も試したいところだ。


 ターゲットとなる者達に次々と声をかけ対戦を申し込んでいく。が、中々相手は見つからない。やはり、強者はガード固い。


 見れば分かる強者なら、対戦の申し込みが殺到するのは当たり前か。見た目は普通で武器だよりの俺が、他と同じようなアタックでは見向きもされない。


 だから少し、戦略を変える事にした。


 街で普通に対戦を申し込んでも相手にされない。

 そこで俺は、最初に対戦した時に撮っていた動画をとあるサイトに上げる事にした。


 勿論、プライバシーの観点から相手の顔はモザイク付きだ。だが俺の顔はモロだし。動画のアップともにこんなメッセージを載せた。


『俺の如意棒と対戦したい相手を求む。後悔はさせない。きっと清々しい汗をかけると保証しよう。気持ちいい汗を流そうじゃないか』


 この動画に釣られてメッセージを送ってくる相手を待つ事にした。


 それから二週間が経った。結果は上々。捨てアド宛には、大量のメールが届いていた。


 中でも、写真付きで送ってきた相手を厳選し、返信を送った。戦うなら、なるべく強い相手が良い。俺は、この時、選ばれる方から選ぶ方になったのだ。


「はっはっはっ!」


 これから始まる戦いの時を思うと、高笑いが止まらない。きっと、俺の如意棒もそう思っている筈だ。その証拠に、意識せずとも如意棒は固く伸びていた。


 スマホの通知がなる。

 さっそく対戦相手か? うん、やはりか。



 相手と何通かやり取りをし、さっそく時間を決めて待ち合わせる事になった。相手も早く戦いたいと我慢出来なかったようだ。


「今日は宜しく……」

「ああ、こちらこそ」


 待ち合わせに現れた対戦相手は、思った通りの強者の風格。これは戦うのが楽しみだ。


 期待に胸膨らませながら、対戦相手と近くの対戦場へ入る。待ち合わせ場所の近くには、対戦場エリアと呼ばれる一角があるのだ。


「どこにする?」

「ここかな……」


 対戦場に入ったら、実際に戦う部屋を決めなければいけない。廊下でやる訳にもいかないし、街中で戦うなんて出来ないだろ?


 まあ、中には街中で戦う迷惑な奴等もいるが、俺にそういう趣味はない。戦闘は、集中出来て人に迷惑をかけない所でするものだ。


 そうすれば戦闘中の掛け声も気にせず上げられる。

 掛け声がないと盛り上がりに欠けるしな。


 部屋を選んだらエレベーターで対戦相手と向かう。

 二人きりの空間に緊張が走った。


 緊張に耐えきれず、部屋に入る前に軽く始めてしまうもの達もいる。実際その現場に居合わせて気まずい思いをした経験もあるしな。


 だが、ここは我慢だ。

 戦闘が始まれば、好きなだけ戦えるのだから。


「じゃあ、先に行ってくる」

「ああ」


 対戦相手が先に身を清めに行った。

 戦う前に身を清めるのは当然の儀式。


 その儀式で戦闘前の準備や、武器の手入れを十分に行うのが戦闘前の礼儀だろう。


 対戦相手が儀式を終えるまで休憩用のソファーで待機する。ここにはテレビも付いており、様々な戦闘シーンを放映するチャンネルの種類も豊かだ。


 その中でお気に入りの戦闘シーンを見て闘志を上げる俺。ふむ……ここの場面はこうか、この体制は勉強になる。


「次いいよ」

「ああ、行ってくる」


 戻ってきた対戦相手と交代で清めの儀式へと向かう。

 丹念に如意棒を磨き対戦に備える。数分経ってそろそろ良いかと戻ると、いきなり仕掛けられた。


「さて、はじめーーん!」


 電光石火の早業。

 油断していた俺はいきなり防戦へと追い込まれた。


 如意棒を攻め立て、防御を崩そうとする対戦相手。

 あまりの戦上手ぶりに感動すら覚えてくる。


「中々やるな……うっ! だが、俺も負けてられるか!」

「なっっ」


 体制を持ち直し相手の懐に入る。

 事前に聞いていた防御が苦手なポイントを攻める俺。


 戦闘で経験を積んで強くなるには、苦手を克服していかなければならないだろ? だから、お互いにポイントを教えあっていた。


 折角の機会だ。

 お互いに高め合うべきだろ。


「そこはっっ」

「ここが苦手なんだろ? もっと攻めてやるよ!」

「うっ! こっちも、負けないっっ」


 お互いに攻め合い良い攻防が続く。

 だが、ここまでは本番までの肩慣らしに過ぎない。


「そろそろいくぞ!」


 俺は固く伸びた如意棒を握り間合いを詰めた。

 対戦相手もここからが本番だと分かり軽く頷く。


「おらおらっ!」

「うっ! こんなに強いなんてっっ」


 想像以上だったのか、徐々に息が切れていく対戦相手。

 負けじと体制を変えながら攻めて来るが、逆に攻めすぎて堪えてきたのが分かる。


「うぁっ! こんなのっっ……」

「一回戦目のスパートだ! おらおらおらっっ!!」

「あぁっっ!!」


 怒涛の攻めにぐったりとする対戦相手。

 少しやり過ぎたか?


「大丈夫か? もう少し手加減した方が良いなら言ってくれ」


 汗を拭くのにタオルを手渡しながらそう聞くと、対戦相手は悔しそうに首をふっていた。


「こんなの全然! まだまだいける! 全力で来て!」


 それから俺達は長い夜を過ごした。

 何度も何度も戦いお互いを高め合う。


 こんな素晴らしい事があっていいのだろうか。俺はどこまでも強くなれる。テレビに出ているような強者にだって勝てそうな気分だ。


 ありがとう……新しい如意棒よ。

 お前に出会えて良かった!

 何度突いても壊れない最高の相棒に感謝だ。


「もっと突いて!」

「ああ、何度だって突いてやる! 俺の……如意棒で!」


 俺の飽くなき戦いの日々は、これからだ。



 終わり

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俺の如意棒…… 瑞沢ゆう @Miyuzu-syousetu

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