俺たち自転車

@amanonosyousetu2

第1話 こぎだし

 のりおは今日から中学一年生。晴れた空の下、学校への道を新しく買ったピカピカの自転車に勢いよくまたがり進んでゆく。のりおは自転車が好きだった、これまでも毎日でも自転車に乗って学校へ行きたかったが小学生という身分がそれを許してくれなかった。

 だがしかし、今は違う。中学生という自転車に乗って登校することが正当化されている身分にクラスチェンジし、のりおは新しい環境への不安と、自転車にたくさん乗ることができる喜びを感じながら学校へとペダルを進めるのである。

 住宅街を進んでゆくのりおだったが、過度の不安と期待の精神的チャンポンにより視野が狭くなっていたこ。いつもはしっかり確認して曲がるT字路を少しのスピード減少で曲がり切ろうとしたその時。


「ぎぃいいいいああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 角から猫がゆっくりと歩み出てきてすれ違い、何事もなかったかのようにして過ぎ去っていった。

 かく言うのりおも、自転車と猫との間はかなり空いていたのでそのままのスピードで学校へと向かうのであった。

「ね、ねこ、ねこひくところだった、ていうか、今日ののりおの運転何なの、スピードは速いし、ふらつきもいままでにないくらいひどいんだけど!」

「うるせえぞ“カゴ”、先端についてるくせしてちょっと猫が出てきたくらいでぎゃあ ぎゃあわめきやがって、あんなもんこのハンドル様のテクにかかればマ〇オカートのバナナ並みにたやすく躱せんだよ。」

「なぁに言っちゃってるの、私はこの自転車の顔なの、しかも新品、絶対に汚しちゃいけないの、事故しちゃいけないの!」


※もうお分かりかと思いますが、この物語では自転車の部品がしゃべります、ただし人間には聞こえていないものとします。


「なんでもいいんだけどさあ、そのおかま口調何とかならないの?すげーうっとおしいんだけど、これから共同生活とかまじでめんどくせえんだけど。」

「口調なんてなんでもいいのよ!あんたもあんたで、ブレーキのくせに全然仕事してないじゃない。あんたが止めないでだれが私の顔を、じゃなくてのりおを守るのよ!」

「はあ~?ブレーキかけなくていいくらいゆっくり行けばいいことじゃん、言っとくけどブレーキかけんのってまーまーきついからね、これマジで。さぼりたくもなるわ~。」

「ちょっと、ハンドル、今の聴いた?やばくない、問題発言過ぎない?あんたからもなんか言ってやんなよ」

「まあ、さすがにブレーキをかけないってのは危なすぎるから仕事はしてほしいが、俺も痛いのは嫌だし。」

「うっせーし、たかが棒きれがしゃしゃんなし」

「んだとこら!表出ろや!二度とブレーキ緩められないくらい締め上げたるわ!」


 かくしてカゴ、ハンドル、ブレーキのみつどもえ罵り合いバトルは幕を開け、その熱が最高潮に上り詰めようとした時であった。


「ね、ねえ、ちょっと、目の前の信号赤なのにスピード上がってない?」

「「ああ?」」

 緩やかな下り坂、その先にそびえたつ信号機の赤色は、己の色以外すべてを拒絶するような禍々しい光を放っていた。

「まったく、のりおのやつ何して、って、フォー!あのブロンドの姉ちゃんスカート丈やばくね?攻撃力やばくね?」

「どこ見てんのよ!って、のりおも同じとこ見てるんだけどおお!」

「ちぃ」

 後輪のブレーキが少しかけられ、スピードは落ちたが、その勢いは未だ赤信号をぶち抜こうとせんばかりだ。

「ばか!なんで後輪にしかブレーキかけないのよ!」

「うるせえ!素人は黙ってろ、そして棒きれ!いつまでも女の尻見てんじゃねえ、次のタイミングに合わせろ!」

「わかってるよ、おらいつでもこい。」

 それから瞬く間にして後輪のブレーキが強まり、それに追いつくように前輪のブレーキがかけられた。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 ハンドルは車体が傾きすぎて倒れないよう、しかし十分に進行方向を前方から左へずらすだけの繊細かつ大胆な操縦をおこなう。

 自転車はギギギギギッという音を立て最後には横断歩道すれすれで白い線と平行に並ぶように停止した。

 のりおは正気を取り戻し、一度自転車から降りて深呼吸を行い、次の次の青信号で学校に向かうのであった。


「ふっ、めんどくせえと言ってた割にはいい仕事してたじゃねえか」

「うるせえな、まあ、棒きれの割にはよくできたほうじゃねえのか」

「じぬかとおもったあああああああああああああ」

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