第22話 姫、魔法の里

一人の少女が身体よりも幾分も大きな弓を手に父の元へ駆け寄る。


「またお前なのか.......」


父の反応は幼目にもわかる。 煙たがられていると。


「お前に魔法使いは向いていない。」


(違うの。父様...私は....)

スカートを両手でギュッと握る。


「王の側近として魔術師を排してきた我らガーデンベルク家の恥め。」




ーーー

ある日、イザベラの故郷から手紙が届いた。

アスタを除いて3人。

私達は今、彼女の里に来ている。


魔法の地だ。



彼女の家は代々王への忠誠に一族から魔術師を献上していたそうだ。


「私も産まれた時は期待されていたらしいよ。」


彼女はため息混じりに言う。

「勝手に期待され、勝手に失望された。」



やがて家に着き、中に案内される。

立派な庭があり、部屋の一つ一つがとても大きい。


案内された部屋の中に無精髭を生やした大男がいた。


「父さん....」

イザベラは何かを言いそうになり、止めた。


彼女の父は薄ら笑いを浮かべる。

「お前に家の敷居を跨ぐ事が出来た理由がわかるか?」


彼女は答える。

弓を強く握りしめ、目を光らせる。

「わからない。」

「何もわからない。」

「呼ばれた理由も、あんたの魂胆も、何もかもが.....」


彼女の震える声は彼の台詞に消された。

「魔法の使えぬ出来損ないの貴様でも、貰ってやると仰るお方が現れた。」


指を指し命令する。

「嫁入りしろ。」

「さすれば、ガーデンベルク家の汚名も返上されよう。」


「一族から出来損ないの忌み子を生み出したと云う烙印がようやく消える。」



「お前は私の罪なのだ。」


普段、感情を顕にしないイザベラの頬に涙が落ちる。


私とミレーナは彼女の父を異を唱える。

「あんた、それでも父親なの!?」


彼は冷徹に答える。

「そうは思いたくないがな。」

「弓を2回引いただけで、動けなくなる"魔法使いもどき"など.....」


「誰も認めないだろうよ。」


私は胸を張って答える。

「そんな事ないわ。」

イザベラが私を横目に見た。


「私達、マリア隊はイザベラを認めているわ。」

「彼女が居なければ皆、魔物達に殺られていた時だってあったの。」


「彼女は必要なの。あんたの下らない価値観の物差しでイザベラを評価しないで。」


ミレーナも同調する。

「何度でもいうにゃ!」


「イザベラは大切な仲間にゃ!!」



「マリア....」

イザベラが呟く。



父親が怒気を孕んだ声で告げる。

「なら、証明してみせろ。」


「その女が無能でない事を証明しろ。」



その日、私達に試練が課された。


魔法の里に封印された古代の魔術師を倒す試練が。

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