第21話 姫、涙の日

アスタが昏睡状態になり2ヶ月が経過した。


私達は彼が入院している医師の家に来ている。


私は知らなかった。

彼がエルフから剣術を教えてもらっていた事や、幼い頃にミレーナと出会っていた事も。


「エルフの剣術は基本、人間が扱える代物ではない。」

「アスタが最後に繰り出した技は、正真正銘最期の技だ。」


「終の剣を使うなんて、常人の精神力では絶対に叶わない。」


「結果、アスタはガラナに一撃を与え、退かせた。」

「君は彼女ら3人を守った。」


「よくやったね。」

ミサは、未だ起きることの無い、アスタの額を優しく撫でた。



ケーネ達は、ひっそりと冒険者稼業を辞めた。

曰く、それぞれが責任を感じており、同時に魔物と闘う恐怖が日に日に増しているようだ。



カエハは、私達の当面の生活費を工面してくれている。


「あの馬鹿....」

ミレーナが拳を握りしめ呟く。

皆が彼女の方を見る。


「誰も欠けちゃ駄目にゃのに....!」

「死んじゃ駄目にゃのに!」


「にゃたしに馬鹿、馬鹿って言ってる癖に....」

胸にトゲが刺さった。


「アスタの方が馬鹿にゃ!!」

「自分の生命を大事にしにゃい方が」


「大馬鹿にゃあ!!!」


ミレーナは泣き崩れた。

イザベラも肩が震えている。


私の頬に一滴の涙が、流れた。




小鳥の囀りと、窓から入ってくる風で目を覚ます。


朝から気分が良くない。

レイモンドを失い、アスタをも失うかもしれない恐怖が私の双肩に重くのしかかる。


アスタは大切な友達であり、仲間だ。

決して、恋愛感情なんてものは持っていない。


いつも私の事を馬鹿、馬鹿と言う。

むしろ、嫌いかもしれない。


しかし、かつてのレイモンドの姿を彼に重ねている自分がいる。


(あぁ〜もーう!)


(もやもやする! 何なのよ!この感情は何なの!?)



階下のギルドに降りると、ミサがいた。


「おはよう。マリアちゃん。」

彼女は笑みを浮かべながら手をふる。


彼女の表情に苛立ちを覚える。

席まで歩き、彼女の胸ぐらを掴む。


「あんたのせいでアスタが死にそうなのよ!!」

「あんたが仕事を紹介したから!!」

結果論だと、判っているが自制できない。


「何故ヘラヘラ笑ってるの!?!?」


「責任は感じてるよ。」

冷たく言い放たれた言葉に虚を疲れた。


「で、でも!!」


彼女は声色を変えずに言う。

「でも、皆そうだ。」

「君含め、イザベラとミレーナも、アスタを助けに行けなかったことを悔やんでる。」


「私はその場に居なかった事をね。」


彼女は私の手を握り、諭すように言う。

「皆、同じなんだよ。」


「悔しくて悔しくて、堪らない。」

「けどね。マリア。」


「何時までも悲観的には、なっていられない。」


「前を向こう。」


手が震え、視界がぼやける。


「でも!」


「後悔は消えないし、無くならない。」


「だけど、前進し続ければ彼らは少しずつ離れていく。」


「マリア。 今だけは」

「泣いていいんだよ。」


「涙が止まったら、前を向こう。」



「....うん.....」


涙が止まらない。

止めどなく流れてくる。



そのまま私は泣き続け、ギルドには私の泣き声だけが何時までも響いた。

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