第19話 アスタ、情熱の鼓動2

「残酷かつ残虐にだ。」


俺は彼の殺気を体全体で受け止めている。

3人を守らなければ.....


「ケーネ! 二人を連れて逃げろ!」


「無駄だ、3匹はすでに動けない。」

天上の空気を揺るがす笑い声が平原に広がる。

彼女らは、腰を抜かしている。


俺は剣を構える

おそらく戦っても勝てない。



(交渉するしかない。彼女達を助けてもらえるように)

「彼女達を助けてくれないか?」

「無理だ。」




彼はニタニタとイヤな笑みを浮かべながら提案する。

「だが、俺の提案を受け入れるのなら助けてやろう。」


「自害しろ。」


後方から3人のヒッと言う声が聞こえた。


「本当にそれでいいのか?」

「あぁ」


彼は人差し指を立て、笑う。

「だが、自身の腹を割いたあと、臓器を取り出し」

「食え」


カエハが吐く。


快感に浸る表情で呟く。

「実に残酷だ。美しい。」



俺は刀を見つめる。

自分の顔が刀身に映る。


夢が過る。


「やっぱ死ねねぇ。」

「どんな大義や名分が在っても、此処で死ぬのは....なんか違う。」


俺は奴に向かって叫ぶ。

「俺はアスタ。 アスタ チェルスだ!」


奴は口角をあげ名乗る。

「アスタ....いい名前だ。俺が殺すに相応しい名だ!」

「俺はガラナ。」


後方の彼女達を見る。

(ここから先へは行かせない....!)


「俺より後ろには行かせないぞ」

ニタニタと笑いながら

「残虐に殺してやる」


「俺の拳とお前の剣。どちらが速いかな?」

ガラナはそう言うと急接近して来る。

(速い!)


拳が2発飛んでくる。

何とか受け流す。


が、


体の至る所から血が飛び出す。


「これが実力の差だ。」

「残酷だが、魔物である俺は、人間の貴様では見切れない速さで殴る事ができる。」


「魔王様の忠臣である俺を、お前では到底倒す事は出来ない。」

「.....わかんねぇだろ。んなこと!」

俺は歩きだすが、直ぐに倒れる。

吐血する。

「がっ!」


「わかるんだよ。」

「ボロボロに砕けた骨、体内で混ざり合った内蔵。」

「死を間近に精神が狂っていく音。」


「この美しさは、人間にしか到達できない至高の美だ。」


「アスタ! お前の絶望の音色を俺にもっと、聞かせてくれ!!」


剣を握る手に力を込める。

「まだ終われねぇ!」

「このままじゃあ.....」

気力だけで立ち上がる。


ガラナは好奇な目で見てくる。

「素晴らしい精神力だ!」

「お前が更に絶望する様を見てみたい!」


重い口を開く。

「夢が叶えられない......!!」


一瞬、ガラナの眼光が曇る。

「夢?」

「あぁ。俺には夢がある。」


「それはな.....」


走り出し、剣を振り上げる。


「お前ら魔物共を殲滅する事だ!!」


右肩に振り下ろす。


.............


「その音色だ。もっと聞かせてくれ!!」

刃が通らない。



鋼のように硬い筋肉が皮膚一枚刃を通さない。。

「....クソっ!」

力を込めるが、両腕が恐怖で震える。


「ははははは!!」

「最高だ! アスタ、お前は最高だよ!」


「優れた精神力を持つ者が奏でる絶望の音は、俺の五臓六腑に福音をもたらす!!」


「アスタ! 貴様の死に際は永遠に忘れないぞ!!」


腹に大きな衝撃を受ける。

気づけば、空を舞っておりガラナが遠くに見える。

(蹴りを入れられたのか......)


数百メートル離れた大木に背中を叩きつけられ、地面に落ちる。


3人の悲鳴が聞こえた。


ガラナが彼女らに歩み寄っているようだ。


(力が入らねぇ....一太刀だけでも....一太刀でいいから....!)



「まだ、死んでねぇ....!」

「まだやれる!」

「師匠! 見ててくれよ!!」


俺は立ち上がり、剣を構えた。




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