第16話 盗賊エルフの過去

私は人間でもなく、魔物でもない曖昧な存在。


人の身体を持ちながら、他種生物の特徴を有する。


ある者は妖精が持つ羽根を持ち、またある者は悪魔の様な牙を持つ。


私は.....猫と呼ばれる小動物のそれを有している。


小柄、耳と鼻が効く、消音性に長ける.....他にも様々な特徴がある。


ヒトの言葉を理解し話せるが、語尾と一人称がどうしても変化する。


アレは、私がある山に行った時の出来事。

ヒトに存在をうとまれ、私達の一族は里を追い出され、間もない頃のこと。



夕食の為の山菜採りをしていると、一人の男の子が近づいてきた。

「そのキノコはお前のじゃねぇ。」

「この山はじっちゃんの山だ。」

「だから、それはじっちゃんのだ。」


私は長老からヒトと口を聞くなとキツく言われていたので、黙っていた。

「お前、なんて名前?」

「ん? つーか人間じゃねぇな。」


心臓が跳ね上がる。

特徴的な猫耳を見られた。

帽子で隠していたのに........。

「まぁ、どーでもいいか。」

「え?」

思わず声が漏れた。

急いで口を手で隠す。


彼は笑いながら言う

「喋れるじゃねぇか。」

「お前さ、噂のエルフ族って奴だろ。」

「ヒトでも魔物でもない存在だってじっちゃんが言ってたな。」


「んでも、ヒトに限りなく近い存在。」


その言葉に顔を上げる。

初めて聞いた。


「そのキノコ食うんだろ?」

私は頷く。

遠くでカラスが鳴いていた。


「やるよ。じっちゃんには黙っとくから。」


恐る恐る声を出す。

彼なら私の事を認めてくれると思った。


「.....あ、ありがとう」

「おう!」


彼は右手を差し出す

「俺はアスタ。」

「お前は?」

ゆっくりと右手を出す。

人との握手を初めてする。


「ミ、ミレーナ!」

「にゃたしの名前!」





ーーーーー

私は真っ暗な空間でうずくまっている。


「一緒に逝きましょう。」

女性の声にノイズのかかった不快音が耳元で鳴り響く。


「嫌! ここから出して! アスタ助けて!」


「誰も助けに来ない。 来れない。」


「さぁ、私と一緒に逝きましょう。」



アスタが飛びかかってきた瞬間に意識が無くなり、目を開けると、この空間にいた。


遠くには一筋の川が見える。


頬に、冷たい掌の感触が広がる。

「ひっ!」


腕を引っ張られる。

複数の子供の声がする。

「ねぇ。逝こうよ。」

「お姉ちゃん、逝こう?」

「一人じゃ寂しいもんね。」


直感でわかる。 

このモノ共についていくと、死ぬと。


「止めて!離して!」

「一人なんかじゃ.......」


女性が真後ろから怒声を発する。


「嘘よ!」


「貴女は一人。 ずっーと、永遠に一人なの。」

「どんなに人間と仲良くしようが、種の壁は超えられない。」


低く、絶望を与える声で


「貴女は人間には成れない。」



涙が溢れる。

彼女にどんな私怨があって連れて来られた、なんて関係ない。

(でも、私は、ミレーナは.......)



「そんなこと、わかってる!」

「でも! 皆認めてくれている!」

「ミレーナの存在を!!」


「自分の存在が嫌になった事だってある。」

「でも! 死んだら、駄目にゃの!」

「自分の悪いところや、駄目な所を愛していかにゃきゃ.....」

「生きていけにゃい!!」



空間に私の声が、響く。


霊達の阿鼻叫喚が間髪入れずに響き渡る。


「黙りなさい!」

「自分を愛す!? そんな事出来たらとっくの昔にやってるわよ!!」


「死ぬ前にね!!!」


「好きなヒトとの子供が出来た。その時は天にも舞い上がるほど嬉しかった。」


「でも!」


「子供には、馬の耳と尾があった。」

「私は自分の正体が人外のエルフ族だと知れ渡った。」

「私はヒトに成りたかった。」


「夫と、子供に囲まれ、平和に暮らしたかった!」


「でも」

「結局、一人になった。」


「そんな自分を愛する!?」

うとまれ、きらわれ、さげすまれる人生を送った自分を???」


彼女の声はだんだん落ち着き、最後には涙混じりで話した。


「同じエルフ族の貴女あなたなら、私の気持ちが解ると思ったのに.....なのに.......」


激昂した口調で続ける。

「殺してやる! 私の人生を否定しやがって!」

「お前も、ヒトと同じなんだ!」

「私を否定して......ああああああ!!!!」



彼女は私の首を締める。

「!!!」

息ができない。

苦しい。

顔が熱くなってきた。


彼女の生前の気持ちを思うと涙が流れた。

生きる事が辛い程、追い詰められた彼女は、首を吊って自死を遂げたと判った。




「よくやったね。もう大丈夫だよ」


何処からともなくミサの声が聞こえた。


首を締める力が弱まる。

それを最後に、私は気絶する。




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