第15話 姫、ミレーナの消滅

アスタを先頭に森の中へ入る。

ミレーナは最後尾を歩き、ずっと目を閉じ、静かに震えている。


森の深部に入ってきた。

ミサはここら一帯の除霊をしていたのだ。

(ま、まあ、幽霊とかいないけどね。)



「にゃあ!!」

彼女が石につまづき、私達3人も倒れる。


「ってぇ。」

アスタが顔を歪めながらミレーナを見る。

「おい、ミレーナ、てめぇ......」

その表情はどんどん青ざめていく。


私は彼の顔が面白くて、笑いながら言う。

「アスタどうしちゃったのよ?」

イザベラは彼に問う。

「どうした? 後ろに何かいるのか?」


イザベラと私が振り返ろうとした瞬間、アスタの怒鳴り声が私達の耳を刺す。


「振り返るな!!!」

「おい! ミレーナに触るな! 障るなよ!!!」


ミレーナは彼の威勢に腰が引けたのか、動けない。


「連れてくんなら、俺にしろ!」


彼は後方の虚空に向かって叫んでいる。

「触んじゃねぇ!!!!」


彼は剣を抜き、ミレーナに向かって飛びかかる。


「らぁあああ!!」

彼の刃は空を切る。


「クソ!!」

彼は舌打ちと共に、剣を地面に投げ棄てる。


「どうしたの......」

アスタを見ると、つい数秒前までいたミレーナの姿が無かった。


常に冷静なイザベラも驚き、この異常事態に動揺している。


「連れて逝かれた!」

「俺が、俺のせいで.......!!!」


肩を落とし、涙を零す彼の姿はとても小さく、儚かった。



イザベラが説明する。

「霊魂とは、喜怒哀楽や様々な煩悩の思念体だ。」

「マリア。お前が霊を信じないのも無理ない。」

「彼らを認知する事は難しいからな。」


「アスタがその霊魂を視えた理由だが」

「おそらく、"恐怖"と云う感情の波長が呼応するように、奴を惹きつけたのだろう。」


アスタが口を開き、低調で話す。

「あれは、女だった。 気持ち悪いほど笑顔な女だった。」

イザベラが彼に言う。

「そうか。ミレーナが羨ましかったんだろうな。」

「私には多少、霊媒師の様な力が生来あるんだ。」


「彼女は、仲間に囲まれ楽しく過ごしているミレーナに嫉妬し、連れて逝った。」


私は尋ねる。

「どこに?」

うつつ黄泉よみの狭間だ。」

「本来、その空間は死ななければ行けないが、奴は生きたままのミレーナを連れて逝った。」


彼女は帽子のつばで顔を隠して言う。

「完全な一方通行の空間だ。」


私は悲痛な声を上げる。

「そんな.....」

「じゃあ。帰って......」


アスタは呟く。

「来ねぇ。」

「........帰って来ねぇ......」

「俺のせいだ。 すまねぇ」


イザベラは言う。

「実体を持たない霊魂を斬ることは出来ない。それに、魔法も効きにくいんだ。」

「連れて逝かれたのは、謂わば必然。止める事など不可能に近かった。」



握り拳を作り、力を込める。

「.......悔しいね。為す術もなく味方が殺されるのは」


「........どうすりゃいいんだ?」

「その空間から、ミレーナを出すには......」


(そう。何か方法があるはず。)

彼は私を見る。


「マリア。指揮官能力は、未来視の様なモノだって言ってたよな?」

「それで、何とかならねぇか?」


確かに、未来視に近い能力ではあるが、厳密に言えば違う。

未来視ならば、常日頃から視れてもおかしくない。


「戦闘中にしか視えないの......」



彼は自身の頬を思い切り殴る。

口端から月光に照らされた鮮血が垂れる。


「手立てはあった。あったんだ。」

「あん時、走ってミレーナを無理矢理引っ張る事だって.........」


拳を地面に打ち付ける。


彼の懺悔は風にざわめく深い木々に消されていった。



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