第13話 姫、永遠の別れ

私はアスタに怒声を浴びせる。

「レイモンドが魔物な訳ないじゃない!」


「レイモンドは...........彼は人間!!」

「私達と同じ人間なの!!」


エンパイア山に声がこだまする。

いつしか号泣していた。


イザベラがいつもの様の口調で私を諭す。

「マリア、落ち着け。」

「炎に長時間、身を包まれて生きている人間なんかいない。」

「加えてあの大爆発。」

「人間なら骨さえも残らない。」


アスタは真っ直ぐ此方を見る。

「前に言ったよな?」

「人間と魔物の死は概念から違うって。」

「でも!」


「でもも何もねぇ。」

「俺たちはレイモンド ルークの姿をした魔物を退治しなきゃならねぇ。」


「そうしねぇと」


彼の言葉と、かつて私が兵たちの前で豪語した言葉が重なる。


「コイツに殺され、死んでいった皆が浮かばれねぇだろ。」




苛立ち、哀しみ、悔しさ、言い様のない、やり場の無い感情を味わう。

未だ炎に焼かれているレイモンドに問う。

「.....レイモンド。 貴方は人間でしょ?」

緊張で膝が震える。

「ねぇ! レイ......」


「違う。 魔物だ。」 


「俺は魔王に忠誠を誓った」


彼は優しい声色に変え、話しだす。

「しかし、マリア様を撃ち抜いた瞬間、己の過ちに気づいた。」

「どんな偶然や巡り合わせでも、貴女に会えて嬉しかった。」


「栄えあるレクラニア軍人や貴女の部下、幼馴染など、どの様な立場で在っても。」

「貴女様を撃った事実は、一生涯消えることの無い罪です。」


「ましてや、惚れた女性に対してなど、言語道断。」



彼は頭を下げる。

「マリア様、貴女の手で、私を魔王の呪縛から解いて下さい。」


魔王の呪縛を解くと言う事は、討伐すると同義だ。


「嫌よ! そんなの嫌!」


「お願いします。」


イザベラが優しく諭す。

「マリア。やるしかない。」


アスタが剣を私に手渡す。


柄の部分に涙が落ちる

「出来ないよぉ、そんなの出来ないよぉ!!」



レイモンドとの記憶が蘇る。


平民出身でありながら、友達として山や川、花畑で遊んでくれたこと。


私が町のガキ大将に喧嘩を吹っ掛けた時は、彼が身を挺して守ってくれた。


宣戦布告の前夜、彼は私に結婚を申し込みに来た。

彼は、こう言ってくれた。

「身分なんて関係ありません。」

「貴女となら、私はどんな時でも.......」


「平和に暮らせそうです。」





そして、何よりも......


どんな時も私の我儘わがままを聴いてくれた。


自分勝手で我儘な私を認めてくれた。 

許してくれた。

愛してくれた。


(そうだね.....そうだよね。)


私は涙を拭き、剣を構える。


最後に己の正直な気持ちを言葉に乗せよう。

「レイモンド!」


「一緒に遊んでくれて、ありがとう」

「たくさんの物事を教えてくれて、ありがとう」

「私と......平和に暮らしたい、と言ってくれて」


「......ありがとう」

感謝しても、し切れない。



「私も.....」

彼に走りより、剣を振り下ろす。

レイモンドの肩に剣先が当たる瞬間、叫ぶ。


「貴方を愛していました」


彼は微笑み、未だ燃えながら、地面に崩れた。



イザベラが詠唱を始める。

彼の身体が崩れ始め、終には存在が消滅した。

魔物であった揺るぎない証拠だ。


彼の最期を娶り、意気消沈している私にミレーナが近寄る。

「マリア、さっきレイモンドに飛びかかった時に奪ったのにゃ」


そう言って手渡されたのは、ペンダントだった。


中には白黒の写真が入っている。


私とレイモンドが笑いあってる写真だ。


写真に私の涙が落ち、染み込む。


イザベラが焦げた土壌を手に取り言う。

「レイモンドは苦しかったに違いない。」

「私にはどういう経緯いきさつで魔王に下ったのかは、推測しかねるが」

「我々に攻撃する事は苦しくて、悲しかったと思う。」


「マリア、お前はレイモンドを楽にしてやったんだ。」



ペンダントを握り締めたままの私は泣き崩れる。


沈みゆく夕日が遠くで輝いていた。













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