第12話 姫、旧友との再会。

「マリア様。 救援が遅くなり申し訳ありません。」

かつての幼馴染は飛行帽を片手に頭を下げた。

胸が高鳴り、感涙してしまう。

母に読んでもらった絵本に登場する王子様のような出で立ちだった。


えあるレクラニア航空隊はこれより東方のユーマルス川に布陣している帝国側の陸戦力に強襲をかけます。」

彼は立派な敬礼をし、塹壕から出ていった。


彼の訃報を聞いたのは、それから間もなくの事であった。




だいぶ山頂に近づいてきた。

厚い雲を抜け、比較的平らな場所に出た。


アスタは先を急ぐ私に言う

「おい! マリア説明してくれ!」

イザベラも同調する。

「そうだぞ。」

「そうにゃ!」



(見間違えるハズがないわ。 あの複葉機の翼面には、レクラニアの国章が描かれていた。)

(もしかして、貴方なの?)

(.......レイモンド)


重い口を開け、彼らに伝える。

「もしかしたら、魔物....は私の知り合いかもしれないの。」

彼は言う

「......どうすんだ?」

「え?」

「あいつは冒険者達を殺している。」

ミレーナも言う

「うん! 私も見たのにゃ! あの魔物からバリバリって変な音がした後、人が血を出して倒れていく所を!」


イザベラは顔を帽子で隠し、静かに言う

「明らかに人間に敵意を持っている。 魔王の手下かもしれない。」

「私は倒す。」

「俺もだ。」

「にゃたしも!」


(どうしよう。3人はもう倒す気だ。もしも、ヤツがレイモンドだったら、私は......)





「マリアお嬢様。 お久しぶりです。」

二年前と変わらない彼の声が聞こえた。


ボロボロの飛行服を身に纏った彼は直ぐそこに立っていた。

「フラン地方の塹壕戦以来ですね。」

声が出ない。

咄嗟に頷く。


「申し訳ありませんが。」

彼はあの時と同じ表情、声色、息遣いで頭を下げた。


「ここで死んで頂きます。」


次に感じたのは、左肩の強烈な痛みだった。

急速に揺らめく視界には、銃口から白い煙を吹かす拳銃を持ったレイモンド ルークの姿だった。



理解が追いつかない。

異世界で再会出来たと思ったら、突然撃たれた。


アスタが激昂して彼に飛びかかる。

ミレーナは高く飛び、上空から彼を襲う。

弓をしならせ怒りに満ちた表情で弦を引くのはイザベラだ。


レイモンドは彼らの攻撃を全て避けると、山頂に向け走っていった。


「マリア! 大丈夫か!?」

イザベラが叫ぶ

「傷口を縫合しないとダメだ!」


私は言う。

「駄目なの。 弾が貫通してない.....取り出さないと」

ミレーナが皆に言う

「にゃたしがやる! こう見えて繊細な作業が得意にゃの!」


彼女は長い爪を小さな穴の空いた傷口に入れ、弾を探す。

イザベラは私が暴れないように抑えてくれている。


「あったにゃ!」

取り出された弾丸は、私の骨に当り先端が凹んでいた。


荒い息をしながら彼女らに、感謝する。

「.....ありがとう。」


イザベラは山頂を見ている。

「レイモンドと言ったな。アイツのこと」

「うん。」

「一体何者だ?」


「私の.......」


空を切る轟音が山頂から聞こえ、私の言葉は遮られた。

アスタが、叫ぶ。


「来たぞ!」

「このっ!」

イザベラが、弓を引き、大量の矢が放たれた。

飛行機に10本の矢が命中すると、落雷が発生した。


しかし、旋回され避けられる。


「マリア!逃げろ!」

アスタの声が聞こえ、飛行機を見る。


機銃掃射しながら私目掛けて突っ込んでくる。 

「なんでよ...なんでなのよ! レイモンド!!」


地面に銃弾が飛び込み、それがみるみる私に近づいてくる。


死を覚悟し目を閉じる。

しかし、弾丸が私を貫通する事はなかった。



「だあぁぁぁあ!!」


アスタが飛行機に対して真横から飛び出てきた。

彼は左翼を斬りつけ、飛行困難にさせた。


地面に落ち、大爆発を上げる。



「やったぞ!」

3人は互いにハイタッチし、喜んでいる。


しかし、恋心を抱いていた彼の死に際に歓喜する事は出来なかった。




ミレーナの耳がある物音を拾う。

「!!」

彼女は驚きの余り、指差すことしか出来ない。


指先には全身を炎に包まれたレイモンドがいた


イザベラが絶叫する。

「何故、死なない!?」


アスタが冷たく言い放つ。

「魔物なんだろ。ヤツも」


(えっ? 今なんて.....)


「姫様。 貴女には死んで貰う。」


レイモンドは、皮膚が爛れ、血色に染められた顔に笑みを浮かべた。






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