第11話 姫、確信を得る。

指先にある物体を凝視する。

見れば見るほど、私が元いた世界で使われていた7弾丸の薬莢にしか思えない。


「弾丸って言うのは........」

「銃....、鉄の筒から発射される、鋼のつぶてで....」

それ以上説明が出来ない。

(何故この世界に? 技術的に有り得ない....)


ミレーナの声が聞こえる。

「来たのにゃ! ゴォーゴォーって音が近づいてくる!」

その言葉にハッとした私は皆に、森へ隠れるように言う。



腹の底まで轟く悪魔の叫び声の様な不快音が近づいてきた。


空から来る。


音のする方を見る。



「そんな.....あれって.......」


イザベラは声を殺して尋ねる

「マリア何か知っているのか? あの魔物について」


音の主は山の頂上へと戻っていった。

その後ろ姿を見て、確信を得る。


「......飛行機......有り得ない」

アスタが言う

「ヒコーキ? 何だそれ?」


「アスタ! こっち来て!」

私はそう言うと、彼女達二人から距離を取り、アスタに説明する。


「アレは私達の居た世界に有った、戦争兵器なの。」

「魔物じゃねぇのか?」

「うん。 人が動かしているの。」

「あんなヘンテコな羽根が二つもあるヤツは見たことねぇな。」



ーーーーーー

私が初めて飛行機と呼ばれる兵器を見たのは、ニ年前。

連合国と同君帝国が永遠とも思われる長さの塹壕戦をしていた時の事。



副官のライアンが息を切らして報告しに来た

「マリア様! 同君帝国の本隊が到着した模様です!」

「戦力比はおよそ3倍です!」


一報を聞いた将校の間に動揺が走る

「撤退すべきだ!」

「しかし、撤退命令は出ていない!」

「それでも! 幾千の友軍の喪失に比べれば!」


私は戦場の嫌な空気を吸い込む。

「この前線を一所懸命の想いで死守せよ。」

皆が見つめる、

「諸君らの逃げ出したい気持ちは最もだ。」

「しかし、今我らが前線を放棄すれば、これまでに死んでいった同志達に顔向けが出来ない。」


私は深い堀の下から灰色に染まった空を見上げる。

「祖国レクラニアから新兵器が投入されるようだ。」

「それらが到着するまで、一兵たりとも退しりぞくな!」

「私の兵士たちよ。 奴らに、我らより後に屍の山を造らせるな!」



5度目の敵の大量突撃が始まった。

皆、一人120発あった小銃弾を撃ち切ってしまった。

ライアンが叫ぶ。

「着剣始め!」

塹壕内での近接戦闘が始まる。

兵士達は皆、恐怖で引きつった表情をしながら剣を銃の先端に着ける。


私も拳銃の撃鉄をおこす。


引き金を引く指が震えている。

(私が恐れてどうするのよ! 皆を鼓舞して取り返しのつかない事をしちゃったのに!)


走ってくる敵兵の顔を睨みつける。

「来るなら来なさい。 タダじゃ死なないから.....」



敵の先鋒が10メートルを切った所で、後方から大きなエンジン音が聞こえてきた。


高速で塹壕の上を通り過ぎた双翼のそれには、祖国レクラニアの王家の紋章がハッキリと描かれていた。


先鋒とその後方に控えている敵兵が倒れた。

航空機からの機銃掃射だ。

塹壕内に歓声が上がる。


Uターンしてきた飛行機から、大量の弾丸が入った箱が投下された。


私は皆に命令する。

「今が好機だ!」

「弾を込め次第、敵塹壕に突撃する!」

「奴らを追い返せ!」


そして、笛を口に咥える。


戦場に甲高い突撃命令の音色が鳴り響いた。





小声で彼に伝える。

「とにかく! あり得ないの!」

「この世界に飛行機がある事も、それを操縦する人がいる事も!」



私は頭を抱える。

弾丸が発射された後に排出される薬莢に、上空を飛び去った飛行機。

(私以外にこの世界に来た人が居るとしか考えられないじゃない!)


だが、友好的な者ではないようだ。

ミレーナも言っていた通り、冒険者に引き金を引いてる事実があるからだ。


「もう、実際に会って確かめるしかないわね。」

私は3人にそう言うと、厚い雲に覆われた頂に向けて歩き始める。






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