第9話 姫、魔物討伐。リベンジ2

目を閉じ、指揮官能力を開放する。


(集中するのよ、焦っては駄目!)

しかし、集中しようとすればする程、余計な思考が邪魔してくる。


両耳には魔物の大群に追いかけられる二人の叫び声が聞こえ、その残響が脳内を駆け巡る。


背中が汗ばんできた。

私は目を明け、滲む視界で彼女を見る。

「ダメ! 何も見えない! いつもなら映像が見えるのに!」


「焦るな。 呼吸を整えて.....」

「このままじゃ、アスタが死んじゃう! ミレーナとも仲良くなれると思ったのに!」

「落ちついて....」

その場にくずれてしまう。

最悪の場面しか思い浮かばない。

「嫌、そんなの、いやだよ、」

「い....」


パァン! と乾いた音が左耳の近くでした。

頬に痛みを感じた。

「おい、マリア! お前はこのパーティのリーダーなんだろ!?」

困惑するが、彼女を見つめる。


「お前の能力"指揮官"は、動揺していると発現しない!」

「惨めに膝まづくな。 前だけを見ろ。 最良の未来を」

「この状況を打破する事だけを考えるんだ。」


鼻水を啜り言う。

「わかった。」


胸に手を当て、閉眼し、頭痛を待つ。


(っ! 来た!)



涙を拭い彼女を力強く見つめる。

「わかったよ! 最良の未来。選択が!」

彼女は微笑む。


大声で叫ぶ。

「アスタ!! 私達に向かって走ってきて!」

「イザベラ、私が合図したら矢を放って! 炎と雷の矢を束ねて一つの大きな矢にするの!」


「よし」

彼女は持ってきている全ての矢を束ね、炎と雷の魔法を練り込む。


矢の大きさに比例して、弓も巨大化する。


彼女の身長の何倍もあるそれを力一杯引っ張る。


「ぐっ、はぁ! っう!」


弦を引く腕から血が吹き出す。

しかし、彼女は引く事を止めない。

いよいよ、着ている衣類も真っ赤に染まりだした。


「イザベラ、もう少し!」

「あと、ちょっと......」


重くなった矢の射程を考慮して、大群の中心に刺さる為には.....


「今! 撃って!」

「アスタ! 前に飛び出して!」


私の声が彼に聞こえた刹那、


彼女の矢は、着弾したと同時に大きな火柱を上げ、天からは幾多もの雷が降り注ぐ。


雷と炎は互いに混ざり合い、天まで届く炎の渦に雷鳴が轟く。


魔物の集団はまともに食らい、一匹として動ける物はいなかった。


「イザベラ!」

彼女の身体からは蒸気が出ている。

もう、動けない。


アスタがミレーナと共に現れる。


「アスタぁ。よかったよぉ!」

「ちょ! 抱きつくな! 倒れる.....」

私達は地面に倒れる。

ミレーナとアスタを見つめる。




「ちょっと! 何なのよこれ!」

イザベラの看病をしている時、見知らぬ四人に話しかけられた。


一人の男が目を大きく開け言う。

「このスライムの大群。君たちがやったの?」

ミレーナは自身満々に言う。

「そうにゃ!」


「肝心の魔法使いは.....ふふ。」

女性がイザベラを見て笑った。


アスタが声を荒げる。

「おい」

「イザベラを馬鹿にすんじゃねぇ。」

「彼女がいなければ、俺とそこにいるミレーナは確実に食われてた。」

「下手したら、マリアとイザベラも殺られてた。」


「俺たちの命の恩人を侮辱すんな。」


「いや、ごめんね。 馬鹿にするとかそんな意図は無かったんだ。」


「あとは私達に任せておいて。」


別の女性がそう言ったのを最後に私の意識は遠のいた。

首に痛みを残して。







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