第6話 姫、能力発現?

「マリア、指揮官として大切な事はなんだ?」

出征前、父は私にそう尋ねた。

「皆をまとめる力.....かな?」

彼は首を横に振る

「違う。」

大切な事…。

「戦場と己を冷静に見つめること」

「次に、敵に対して最も効果的な一撃を与えることだ。」



アスタとイザベラは私に言い寄る。

「作戦でもあるのか!?」

「ある!」


「イザベラ、荷車の方に周りのスライムより大きな奴がいるでしょ? アイツに魔法を撃って!」

イザベラは怒声を交えて言う

「奴を倒した所で何が変わる? 誰かを犠牲にしないと...!」

「それだけはダメ!」

「はぁ?」


「私、わかったの。 これが能力の指揮官だと思う。」

一瞬、脳内に映像が流れた。

未来予知のような。

しかし、確信を持てる何かだ



彼らは怪訝な顔をしている。

「とにかく、イザベラやってよ!」

「はいはい。」

彼女は弓を引き絞り矢を放つ。

私が指示したスライムに当たり、その大きな身体は炎に包まれた。


敵集団に動揺が広がっていく。 

(やっぱりね。敵も私達人間と同じなのね。)

奴は知能の無い他のスライムを統制していたのだろう。

指揮官が居なくなれば、その集団は統率力を失い、自然と瓦解する。


とにかく今は撤退しなければ。

「イザベラ、もう一度......」

彼女を見ると、アスタの肩を借りて立っていた。

呼吸が荒い。 今にも崩れそうな姿勢だ。

「すまない。 もう体力が残ってない…。」

アスタが言う。

「魔法使いは自身の体力を削って魔法をだすんだ。」

「どうしよ.......。イザベラの魔法が無いと、抜け出せない…」



「俺の能力なら、二人を此処から荷車まで飛ばせるかもしれねぇ。」

アスタはそう呟いた。

「マリア、お前を先に飛ばす。イザベラのキャッチよろしくな!」

「ちょっと…」

私は言い終わる前に担がれ、飛ばされた。

そして、荷車の近くで雑な受け身を取りアスタを見る。

直ぐイザベラが降ってきた。

何とか受け止め、荷車に乗せる。


「身体中が熱い...。湯気が出て...」

「ごめんね。こんなになるまで、頼っちゃって」

彼女は小さな声で言う

「大丈夫。頼られて嬉しかったから。」


その時後方から、雄叫びが聞こえて来た。

アスタがなりふり構わず剣を振り回しながら走ってくる。


彼が荷車に着くと、全速力で帰還する。

「スライム追ってきてない! よかったぁ。」

「うぉぉぉおおお!」

シャトラスへ続く街道にアスタの声がこだました。



シャトラスに着く頃には日が暮れていた

もう冬なので、野宿は危険だ。

かと言って、宿泊する金は持っていない。

アスタは街中の宿屋に出向き、泊めてくれるよう懇願してくれている。

イザベラはまだ体力が戻っていない。


「見つけたぞ、宿」

睡魔に負けかけていた時、アスタの声が聞こえた。

「アスタおかえり」

彼は自身の顎を指差す。

「マリア、涎出てるぞ」

「うひゃあ!」

恥ずかしさで変な声が出てしまった。

急いで涎を拭く。



「宿なんだが。 ギルドの上にある空き部屋を貸して貰えた。」

「やったぁ!」

「だがな、一ヶ月、銀貨30枚でだ。」

この世界では、銅貨に銀貨、そして金貨の3種類の通貨が流通している。

銅貨10枚に相当するのが銀貨1枚。

銀貨100枚に相当するのが金貨1枚だ。


「銀貨30枚? てことは、銅貨3000枚……。」

「あぁ。スライム一匹あたり銅貨6枚だから、500匹退治すれば一ヶ月分だな。」


.........。

「無理無理無理無理!」

「もう二度とアイツらに会いたくない! もう見たくない! お外怖い!!」

「わがまま言ってもしょうがねぇだろ。 この寒空の下、3人仲良く凍死するか?」

「でも.....!」

「何よりイザベラの身体を優先して考えろよ。」


彼の言う事は最もだ。

銅貨3000枚。 魔物退治以外でも金は稼げる。

私は意を決した。

「.....わかったわよ。」

彼はその言葉を聞くとイザベラを背負い、歩き始める。

「飯代込みだから、帰ったら飯にしような。」

「やったあ!」

私のお腹がぐぅと鳴った。

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